「いかなる軍事上の作戦においても、そこには明確な戦略ないし作戦目的が存在しなければならない。目的のあいまいな作戦は、必ず失敗する。それは軍隊という大規模組織を明確な方向性を欠いたまま指揮し、行動させることになるからである」(戸部良一ほか『失敗の本質』)

 これは、日本軍がなぜ太平洋戦争(本書では大東亜戦争と表記)で無残な失敗を繰り返してきたかを分析した名著です。本書では、さらに高木惣吉『太平洋海戦史』の以下の文章を引用しています。

「彼等(日本の陸海の軍人のこと)は思索せず、読書せず、上級者となるに従って反駁する人もなく、批判を受ける機会もなく」という状態だったから、負けるべくして負けたというわけです。

 二つの書籍は日本軍の悪弊についての分析ですが、私には、今回のアメリカによるイラン攻撃のことを評しているように読めてしまいます。

 今回、アメリカのトランプ大統領は、どんな戦略を持ってイランを攻撃したのでしょうか。

 イランの核開発の阻止でしょうか。イラン指導部の排除でしょうか。イラン・イスラム体制の転換でしょうか。これがはっきりしないのです。最高指導者のハメネイ師を殺害した後、「後任にふさわしい人間は複数いる」と言っていたのが、「空爆でみんな死んでしまった」と嘆いたりしています。結局、ハメネイ師の次男のモジタバ・ハメネイ師が後任に選ばれました。この人物は両親と妻が殺され、本人も負傷していると伝えられています。家族を殺され、恐らく復讐心に燃えているでしょう。さらに56歳と、父親よりはずっと若返りました。イラン指導部に関しては、アメリカにとって前より悪くなったのです。

 戦争が始まってから、トランプ大統領の発言はブレにブレています。戦争開始直後には「戦闘は2、3日で終わる」と言ったり、「5週間かかるかもしれない」と言ったりして、はっきりしません。まさに「明確な戦略」があったわけではないのです。

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source : 週刊文春 2026年3月26日号