“生活習慣病の総合デパート”こと、記者歴20年の「オジ記者」が認知症外来専門医に弟子入り。認知症予防について真剣に考える新連載の第2回は、「認知症と血圧」を取り上げる。
厚生労働省の「患者調査」(2023年)によれば、高血圧性疾患、いわゆる高血圧の総患者数は約1600万人。男女別の内訳を見ると、男性が約740万人、女性が約870万人。日本高血圧学会の推計では、高血圧予備軍や未受診の人まで含めると、その数、約4300万人にものぼる。
高血圧は、動脈硬化や心筋梗塞、脳梗塞など、心血管疾患の原因になるだけでなく、認知症の発症リスクを著しく高めるが……。
■第1回はこちら
Q 三度のメシより〆のラーメンが好き! 49歳、オジ記者です。塩分にフォーリンラヴなオイラ、血圧との闘いがライフワーク。
A 血圧の数値はいくつ?
Q つい最近まで、上の血圧(収縮期血圧)が150mmHg、下の血圧(拡張期血圧)が90mmHgを軽く超えてましたけど、高めですか?
A バカヤロー! そんな血圧だと認知症へまっしぐらだゾ! 3700人超のハワイ在住の日系人を長期観察した「ホノルル・アジア老化研究(HAAS)」によると、中年期(40〜60歳)において、上の血圧が120mmHg未満の人と比べ、120〜139mmHgの人は1.64倍、140mmHg以上の人は2.66倍もアルツハイマー型認知症をはじめとした認知症の発症リスクが高まると報告されているんだ。
Q 何事も上を目指すほうがいいと思っていたんですけど……。
A おバカ! 西欧14カ国、約3万1000人(平均年齢72歳)を調査した豪州、米国、欧州の共同研究(24年)でも、高血圧を治療していない人は、治療済みの高血圧患者と比べて、42%もアルツハイマー型認知症のリスクが高いことが判明している。
認知症予防を考えるなら、高血圧の放置は絶対NG! オジ記者のように中高年で高血圧の人は、治療による改善が急務だ。
Q 放置プレイ好きだけど。
A プレイじゃないの!
Q でもオイラこう見えて、高血圧治療はバッチリ。なんせ、少し前から降圧剤を飲んで血圧管理しているもんね。

A え! 降圧剤飲んでもそんなに血圧が高いの?
Q まさか。飲んで上が130mmHg、下が85mmHg。オイラの主治医は「降圧剤を服用していると認知症の発症リスクが下がる」と言ってましたよ。
A たしかに、特に高血圧を発症しやすい中高年には、降圧剤による治療が有効だ。米国・国立衛生研究所の研究(19年)では、認知症ではない55歳以上の3万1090人を調査したところ、降圧剤を使用した人は使用していない人に比べて12%、認知症の発症リスクが低下していた。アルツハイマー型認知症だけを見ると16%も下がっていたんだ。
Q ほら、やっぱり。降圧剤は認知症予防にも有効でしょ♪ オイラは生涯、降圧剤を飲み続けるつもり。
A 問題はまさにそこ。ズバリ、降圧剤依存にある。
Q 降圧剤依存!
A 65歳以上の介護施設入所者約1万2000人を対象に行った米国の研究(24年)では、降圧剤を継続して飲み続けたグループでは、12.1%の人に認知機能の低下がみられたのに対し、降圧剤を減らしたグループでは10.8%に留まった。つまり、高齢者になっても降圧剤を飲み続けることは認知症リスクの一つなんだ。
Q 降圧剤を飲めと言ったり、減らせと言ったり……。でもなぜ、高齢者にとっては降圧剤が認知症のリスクになるの?
A そもそも高齢者になると、それまで高かった血圧が自然と下がる人が意外に多いことが一つ。
Q 院長の患者さんも?
A うん。仕事や子育てが落ち着いてストレスも減るし、暴飲暴食の機会も減るから血圧は下がりやすいんだ。それに気づかず、オジ記者のように降圧剤をお守り代わりに飲み続けてしまう人が一定数いる。すると、「過降圧」といって、血圧が下がり過ぎて逆に低血圧になってしまうんだ。
過降圧以上に問題なのは……
Q 血圧が低くなるのは、脳にいいんじゃないの?
A 血圧は、高すぎるのもリスク、低すぎるのもリスクだ。血圧が下がり過ぎると、脳への血流が不足して認知機能が低下すると言われている。中年期に高血圧(140/90mmHg)だった4700人を24年追跡調査した米国の研究(19年)によると、老年期に入って低血圧(90/60mmHg)になった人では、認知症の発症リスクが62%も増加している。高血圧から低血圧への「変化」が、認知症予備軍(MCI)の発症リスクを高めることも指摘されたんだ。
Q 問題は急激な「変化」なのね。
A その通り。
Q だとしたら、何歳までに降圧剤とオサラバすればいいの?
A 前回、人間の脳には四つの劇的な転換点があるって話をしたのは覚えてる?
Q もちろん。9歳、32歳、66歳、83歳の四つの段階で脳のネットワーク構造が大きく変わるんでしたよね。
A そう。40〜60歳くらいの中高年の高血圧患者は、降圧剤で血圧をコントロールして、120/80mmHg未満におさめるのがベスト。だけどその後、遅くとも66歳までには降圧剤から卒業したい。
Q たいへん、あと17年しかない!
A 脳の劣化が急激に加速する66歳までには、降圧剤を卒業、もしくは大幅に減薬しよう。降圧剤に頼らず、日々の生活習慣で血圧を安定させる努力をすべきだ。
Q 努力……。オジ記者が一番苦手な言葉だあ。ラーメンをスープまで飲み干して一旦落ち着こうっと。
A また血圧が上がるゾ! 「過降圧」以上に問題なのは、オジ記者のように「血圧は降圧剤で管理できているから大丈夫」と過信して、高血圧の根本原因に対処できていないこと。
Q う、耳が痛い……。
A たとえ血圧が薬で管理できていたとしても、塩分の過剰摂取自体がアルツハイマー型認知症の発症原因となるという指摘もある。原因物質となる「タウタンパク質」を脳内に凝集させ、神経細胞の破壊が進むといわれているんだ。
Q なんだか頭が痛い……。
A 高血圧の原因となる肥満も、体内に蓄積された脂肪細胞が慢性炎症を引き起こし、脳細胞に悪影響を与えることが指摘されている。だから、認知症を本気で予防したいなら、食事改善と運動に励み、降圧剤からの卒業を目指すべきなんだ。

Q 院長の正論が最大のストレスです(泣)。オイラ膝が痛いし。
A 正しい食事と運動は「天然の降圧剤」と呼ばれているよ。膝が痛ければ、水中ウォーキングがおすすめ。食事は、腎臓に問題がなければ、過剰な塩分を体外に排出してくれるカリウムが豊富な野菜を積極的に摂ろう。
Q 運動嫌い、野菜嫌いのオジ記者にとって、なんとも不都合な真実……。
A 現実から目を逸らすな! 次回はオジ記者も大好きな「酒」と認知症を取り上げるので、お楽しみに♪
イラスト=ポートレーターmiki
◆内野勝行院長/埼玉県育ちながら、チャキチャキ江戸っ子マインドの脳神経内科医。2015年に「金町駅前脳神経内科」を開院以来、認知症や認知症予備軍(MCI)患者のべ1万人以上を診察。認知症外来専門医として認知症予防にも注力。患者を思うあまり、時々つい口が悪くなる。
◆オジ記者/週刊誌記者歴20年。夜毎、情報収集という名の飲み会に勤しみ、〆のラーメンが至福。肥満、高血圧、糖尿病、脂質異常症の生活習慣病に絶賛罹患中の49歳。
source : 週刊文春 2026年4月2日号






お気に入り記事