(はら)ミズハが窓をノックしてきた時は驚いた。助手席に乗ってもらう。彼女は頭や服についた雨を気にすることもなく、「記事にしないでくれませんか」と頼んできた。昨晩、張り込みはじめたのは二十時くらいだったから、四時間ほど経っている。

「あの、私、十年前に引退していて」

「分かっています。今は一般人ですよね」と言ったが俺からすれば彼女は芸名の原ミズハのままでしかない。「俺たちは(ます)()(てつ)さんを取材していたんです」

「取材というか、勝手につけていたんですよね」

「昨晩、イタリアン・バルで女性と会って、タクシーに乗って、その女性のマンションに入って行ったと思ったら、その女性があなたでした」撮った写真を確認して気づいたのだ。

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source : 週刊文春 2026年4月2日号