松永が通電虐待を始めるきっかけの出来事に、深く関わっていたのは「ワールド」社の元従業員だった。彼の口から明かされたのは、松永の常軌を逸した残虐性だった。

北九州監禁連続殺人事件とは
 

1995年から2002年にかけて、福岡県北九州市のマンション内で発生した監禁・連続殺人事件。犯人の松永太(逮捕当時40歳)が内縁の妻・緒方純子(同40歳)と共に知人や緒方の親族などの同居相手に対して脅迫・虐待などを相次いで行い、最終的には自分の手を汚さず、マインドコントロールにより互いに互いを殺害させるように仕向けた。一連の犯行は7年に及び、犠牲者は7人にのぼった。02年に監禁されていた広田清美さん(仮名、当時17歳)が虐待から逃れ、祖父母に助けを求めて脱出したことで初めて事件が発覚し、11年に松永の死刑が確定。共犯の緒方も無期懲役が確定した。

「通電について、大学病院の精神科の先生から話を聞いたことがあります。その先生は、被害者である原武裕子さん(仮名)のPTSD(心的外傷後ストレス障害)の治療を担当した方です。その先生が研究論文を見つけてきたんですけど、アフリカで捕まえた反政府ゲリラに、通電の拷問を行った事例が載っていたそうです。論文によると、80パーセントくらいが政府側に寝返ったというんですね。つまり通電というのは、それくらい相手を服従させてしまう。この文献は、証拠資料として検事に渡しています」

 元福岡県警捜査一課特捜班のT班長(78)は、松永(太。逮捕時40)による通電虐待に触れる際に、その威力についての事例を挙げた。

 通電虐待の原点を辿ると、松永が柳川市で経営していた、布団訪問販売会社「ワールド」に行き着く。

 T班長によれば、松永の関係先への家宅捜索で、「ワールド」時代の関係者リストを押収したという。

「手帳とかそういうもんだったと思うのですが、たしか185人分の人名と電話番号だけが書かれた、リストを押収しているんです。相手の立場や関係などは全く書かれていません。ほんとに人名と電話番号だけ。ただ、松永を取調べていたH係長によれば、松永はそのリストの全部を覚えとったと。あいつの記憶力はもう、すごいですよ。で、リストに挙がった人名と電話番号については、T巡査部長やH巡査長などの『裏付け班』が、全部潰していっとるんです。その捜査のなかで、『ワールド』の元従業員にも辿り着きました」

 私も当時、比較的早い時期に「ワールド」の元従業員への取材をした。2002年9月のことである。山形康介さん(仮名)という、当時44歳の男性だった。

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source : 週刊文春 2026年6月18日号