〈メリットが何一つ無い〉。積み重なる取材への断りの返事。証言者探しは難航を極めた。だがある日、取材班の一人が、元ジュニアが通うバーの情報を聞き出してきた。
「1万円のスーツなら1万円分、10万円のスーツなら10万円分の取材ができるもんだ」
週刊誌記者を始めて日が浅いころ、トップ屋と呼ばれた遥か年上の先輩記者に言われた言葉だ。
記者にとっての服装は、相手に対する印象を決定づけるうえで、とても重要である。
政治や経済を取材するなら、相手がスーツを着ていることが基本なので、記者もスーツで構わない。それが当たり前の世界だから、相手に緊張感を持たせることはないからだ。むしろ、安っぽい服だと相手になめられ、適当にあしらわれることになりかねない。先輩もそういう意味を込めていたのだろう。
ただ、それ以外のジャンルの取材において、ネクタイを締めてスーツという記者は少ないだろう。そんな恰好をすれば相手に緊張感を与え、ちゃんとしたことを言わなくてはならない、という意識にさせるからだ。
あるとき、不倫スキャンダルでダメージを負った女性タレントに会うことがあった。同行の女性記者がワンピースを着ていたので、「今日のテーマは優しさ?」と訊くと、微笑んでうなずいた。私は普段よりもフォーマルなジャケットだったが、それは少し前まで売れっ子で、芸能界の先頭を走っていた相手への、リスペクトを込めたつもりだった。
我々が求めているのは、相手がリラックスした状態で、ありのままを話すこと。そのために、その日会う相手に合わせて服を考えている。
ただし、それはあくまで相手に会えるという前提が必須なのだが――。
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source : 週刊文春 2026年7月23日号






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