優しさって、難しくないですか?

 数ヶ月前のこと。仕事で飛行機に乗る機会が。連休中だったせいか満席の状態で。私の席は、三人掛けシートの窓際。横には30代だと思われる女性が。どうやら、息子さんと一緒らしいのだが、隣同士の席がとれなかったようで、息子さんはすぐ後ろの席に。お母さんと縦並びの状況。前後で「お母さん、お茶ある?」「さっき、リュックに入れたよ」とホッコリ会話が。声や雰囲気から小学校の低学年くらいとみた。すると息子さんの横に座った人(声からして中年男性)が、後方からお母さんにコソコソ話しかけ始めて。内容は聞こえないものの、お母さんがしきりと「いえ、本当に大丈夫ですよ」と恐縮しまくり。「何を断っているのだろう?」と思っていると、あれよあれよと私の横に中年男性が着席しお母さんが後ろの席へ。

 なるほど、そういう事ね。息子さんと母親を隣同士にするために席をチェンジしてあげたのね。何て親切で優しい方なんだろう。その発想、私には1ミリも無かった。こういう気遣いができる男性と結婚したら幸せかもね。ただ、その中年男性、まさかのデッカチャンサイズ。真横の席が細身のお母さんから太身のおじさんになるって、まずまず問題があるわけで。誤解を恐れずに言いますと、物理的に窮屈、身動きしにくい、圧迫感があり暑く感じる。でも気遣いから始まったことに文句を言うのは違うし、嫌な気持ちを抱くのさえも罪悪感。ただただ「お母さんが良かったなぁ」「お母さんの安心感って最強だよなぁ」「お母さ〜ん」と思いながら窓の外を眺めるしかなく。

 もうワンエピソード。名古屋駅で新幹線の切符の時間と区間を変更したくて、きっぷうりばに並んでいた時のこと。あと20分後に出発予定の切符だったので、それまでに変更をしなければならないという切羽詰まった状況。時計を見つつ焦りながらいると、私のすぐ前に並んでいた若者(20代の男性)3人組が、どこから見ても困り果ててウロウロしているおじいさんに、「あれ? おじいさん、大丈夫?」「きっぷうりばに用があるの?」「ここ並びなよ」と自分たちの前に入れてあげて。

 なんて優しい若者たち。戦争を経験したおじいさん世代が頑張ってくれたおかげで今の日本があるわけで。優しい気遣いができるなんて、今の若者も捨てたもんじゃない。頼んだぞ! これからの日本を! 本来ならそう思いたい。余裕があれば全然思える。けれど、今の私は1分1秒の戦いの真っ最中。おじいさんが入ることで時間変更が出来なかったら非常に困るんです。だからといって、「横入りなので、後ろに並んでください」なんて言おうものなら、ひとでなしだと思われる。若者の優しさから始まったこの状況に切符を握りしめじっと堪えるしかなかった。

 優しさや親切って素晴らしい。でもそのせいで嫌な思いをしている人がいることもあるんです。視野を広げ、私みたいな人に「気づいちゃった、気づいちゃった、わーいわい」のデッカチャン視点でやっていただけるとより助かります。

イラストレーション 深川 優

(おおくぼかよこ/1971年生まれ、愛知県出身。千葉大学文学部卒業。幼なじみの光浦靖子と「オアシズ」を結成。『めちゃ×2イケてるッ!』でのブレイク後、数多くのバラエティ番組などで活躍中。TBSラジオのポッドキャスト番組『大久保佳代子とらぶぶらLOVE』も人気。)

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source : 週刊文春 2026年10月15日号