週刊文春 電子版

【パワハラ音声入手】菅「錯乱」と河野パワハラ音声

深層レポート 日本中枢の崩壊

「週刊文春」編集部

PICKUP!

ニュース 社会 政治
ワクチン政策も取り仕切る
ワクチン政策も取り仕切る

《安倍「菅ではまとまらない」岸田に送り込んだ最側近》
《自民党幹部も「怖い。菅は何するかわからない」》
《幹事長に野田聖子 石破茂で菅が狙う電撃解散》
《看板政策で“内ゲバ”菅側近閣僚VS.河野 進次郎》
《河野裏の顔「日本語わかる奴、出せよ」音声入手》

「もうメチャクチャだ。最近の菅さんは怖い。もう何するか分からないんだよ」

 小誌の取材に、自民党幹部はそう漏らすのだった。

 8月30日午後3時半。菅義偉首相は官邸で、二階俊博幹事長との会談に臨み、幹事長交代が決まった。

 菅首相が突如として踏み切った“二階切り”。動き出したのは、8月26日、岸田文雄前政調会長が総裁選出馬会見で、党役員任期に制限を設け、二階氏の続投を封じたことだった。

「岸田氏の会見は当落線上にいる中堅・若手議員を中心に、好意的に受け止められた。それまで『岸田は首相の器じゃないだろ』と強気だった首相でしたが、この動きに強い危機感を覚えたのです」(首相周辺)

 首相が153日ぶりに赤坂宿舎から外出しなかった8月29日。だが、この日、各所と電話でやり取りを重ねていたという。中にはこんな意見もあった。

「人事を今、やるべきではありません。さすがに国民の理解を得られません」

 しかし、こうした進言に耳を傾けることはなかった菅首相。赤坂宿舎で二階氏と面会し、幹事長の交代と同時に内閣改造に踏み切ることを決めたのだった。

「疲れた」「眠れない」と漏らしていた菅首相
全ての画像を見る(12枚)

「このタイミングで、選挙の責任者の二階さんを切るってことですから。これまで支えてきましたが、二階派はもう半分が『反菅』です。地方の党員含めて総スカン。総裁選の日程は決まっている中、人事に踏み切るなど結党以来なかったし、常識では考えられないことです。菅政権の断末魔と言うほかありません」

 二階派の山本拓衆院議員(当選8回)は、首相の人事をそう突き放す。

 では、これまでカネや人事を牛耳る二階氏との訣別を求めてきたあの2人は満足なのか。安倍晋三前首相と麻生太郎副総理である。

「ただ、今回の“二階切り”は安倍氏や麻生副総理とすり合わせていたわけではありません。表向き菅支持を掲げながら、清和会も麻生派も自主投票へと傾いていました。そうした状況に、首相は不信感を抱いていた。投げやり気味に『派閥をまとめられないで……』と漏らすこともありました」(前出・首相周辺)

 それもそのはず、そもそも本音では、安倍氏、麻生氏の“推し”は岸田氏だ。

安倍氏が推したい岸田氏

「実は岸田陣営には、安倍氏の最側近で知られる今井尚哉元首相補佐官が出入りしています。岸田氏の右腕である政策秘書は以前から、今井氏にアドバイスを求めるような間柄。その今井氏も『菅政権はもうダメ。岸田文雄しかいない』と漏らしているといいます」(政治部デスク)

 水面下では、今井氏の“親分”である安倍氏もこう口にしているという。

「清和会は菅ではまとまらない。無理やりそんなことすればロクでもない結果になる」

経産省と近い安倍前首相
高市氏は推薦人を集められるか

これほどの“私利私欲”はない

 二階氏、安倍氏、麻生氏との溝が生まれながら、首相は前のめりに突っ込んでいく。清和会の領袖・細田博之元幹事長は8月31日、こう語っている。

「内閣改造後、臨時国会を召集し、即解散がある。今の流れで総裁選に突っ込めば、菅は総裁選に勝てない。だから菅は今、解散を打つための“顔”となる幹事長選びに入った」

 その幹事長は誰か。

「一人は、国民的人気の高い石破茂元幹事長。首相は『挙党一致という感じになるから』と前向きな姿勢を示しています。一方で『女性もいい』とも口にしている。有力候補は野田聖子幹事長代行です。実際、首相側近には、野田氏と非常に近い人物もいます。彼らを幹事長に据え、電撃解散に踏み切るというシナリオです」(前出・首相周辺)

河野氏に次ぐ人気を誇る石破氏
幹事長候補の野田氏

 首相の最側近、森山裕国対委員長も小誌の取材に対し、「解散になったら、全部ストップする」とし、総裁選を衆院選後に先送りする可能性を示唆した。

「コロナ対策を置き去りに、自らの延命しか考えていない。これほどの“私利私欲”はありません。ただ、そうした首相の思惑は見透かされている。要職の打診を断る議員も出てくるでしょう」(自民党関係者)

 自らを首相に押し上げた二階氏を切り、安倍氏、麻生氏との間に溝が生まれても、ただ1人、己の再選に血眼になる菅首相によって、内閣も崩壊しつつある。

 8月24日、霞が関。昼1時40分からオンライン会議が開かれていた。

「行政機関として責任を持って対応するという点で原案のままにさせて頂きたい……」

 そう申し出る官僚に対して、声を荒げる1人の男。

「いやいや、行政機関じゃなく。これ政府がやるんだ、閣議決定だから。日本語では、36~38以上というのが日本語だろ」

 男の剣幕に言葉に詰まりながらも、官僚は必死で説明を重ねようとする。

「え、え、えっとですね、政策的な裏付けを積み上げてですね……」

 しかし、男が繰り返すのは、同じ言葉だ。

「だから36~38以上だろ!」

 官僚は再び説明を試みる。

「いや、積み上げて36~38程度……」

「以上」と「程度」を巡るやり取り。だが男は三たび官僚の発言を遮って、ドスの利いた声で怒鳴った。

「積み上げて36~38になるんだったら、以上は36~38を含むじゃないか!」

 そして、こう言い放ったのだった。

「日本語わかる奴、出せよ、じゃあ!」――。

 声の主は、河野太郎ワクチン担当相。「次の総裁に相応しい人」を尋ねる日経新聞の世論調査(8月27日~29日)でも首位になった人物だ。菅政権の中枢を担い、国民からは次期首相候補として最も期待されている政治家だが、

「河野氏ほど、世間が抱く改革派の印象と、永田町や霞が関の評価が乖離している政治家もいません」

 そう明かすのは、事務次官経験者の一人だ。

 どういうことか。

 

 河野氏が安倍政権で国家公安委員長として初入閣したのは、15年。以降、外相、防衛相、ワクチン相などを歴任してきた。が、外務省関係者はこう訴える。

「スタンドプレーが目立ち、テレビなどでは注目を集めやすい。例えば、外相就任前に目玉政策の一つとして『ODA予算の半減』を掲げていた。ところが蓋を開けてみれば、例年並みの伸び幅で、拍子抜けしました。外相時代の2年で新記録となる123カ国・地域を訪問しましたが、訪問自体が目的化し、戦略が見えなかった。限られた人員でロジを整える必要もあり、現場に過度な負担を与えていました」

 一方で、国民には“良い顔”を見せる。防衛相時代の昨年2月、パワハラを行った自衛隊員への厳罰化を表明。「パワハラは根絶しなければならない」と高らかに宣言した。さらに、昨年9月には、公務員制度担当相として「霞が関の『ブラック』な状況をなんとか『ホワイト化』する」と語り、官僚の働き方改革を進める意向を示している。

 しかし、それらはポーズに過ぎないのか――。

 小誌は今回、次期首相候補の“裏の顔”を如実に示す音声記録を入手した。その一部が、前述したオンライン会議である。これは一体、何の会議なのか。

 実はこの会議に、河野氏はワクチン相ではなく、規制改革担当相として参加している。規制改革相として昨年12月に立ち上げたのが、再生可能エネルギーの規制改革に関する大臣直轄のタスクフォースだった。

「3・11以前から、河野氏と言えば、『脱原発』が代名詞。『総理になったら原発ゼロの日本を作る』と語るなどエネルギー政策に拘りを持ってきました。ただ、当時の安倍政権は原発維持の立場。15年に初入閣した際、官房長官だった菅氏から『持論は封印して』と言い渡されたほどです」(前出・政治部デスク)

 しかし、昨年9月に菅政権が発足。首相は成長戦略として、2050年に温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする目標を掲げた。

「首相はもともとエネルギー政策には大して関心はありません。ここで、小泉進次郎環境相とタッグを組み、主導権を握ろうとしたのが、河野氏です。4月下旬、小泉氏は『46が浮かんできた』という不可思議な理由で、『30年度に温室効果ガスを46%削減することを目指す』と言い出しました。これには『根拠のない数字』と批判も出ましたが、背中を押していたのが河野氏です」(同前)

小泉環境相とタッグを組む

 46%減という数字を受ける形で、3年に一度の見直しを行うのが、「エネルギー基本計画(エネ基)」である。原子力や石炭、再エネなどの割合を盛り込んだ基本方針だ。10月の閣議決定を目指し、資源エネルギー庁は8月4日に素案を発表したが、河野氏&小泉氏の攻勢に、強い不満を抱いてきた閣僚がいる。

エネルギー基本計画の素案

 梶山弘志経産相。梶山氏の父・静六氏は、菅首相が「政治の師」と仰ぐ存在であり、“側近閣僚”として政権を支えてきた。

梶山経産相の部下が……

 経産省関係者が明かす。

「二酸化炭素を排出しない原発の比率を下げれば『カーボンニュートラル』の実現が遠のくのは明白。8月に入り、梶山氏は『河野の小童が』と苦々しげに語っていました」

 そうした中、経産省の見解を改めて河野氏に伝えるために開かれたのが、8月24日のオンライン会議だったのだ。河野氏へのレクに臨んだのは、エネ庁の山下隆一次長と小澤典明統括調整官。一方、河野氏の傍らには、内閣府の山田正人参事官が控えていた。

「はい、次」「はい、ダメ」

「山下氏は1989年入省で、多田明弘次官の3期下。次官候補の一人ですが、3・11の頃に体調を崩しており、激務はセーブしないといけない。小澤氏は省内きってのエネルギー通です。一方、山田氏は霞が関の有名人。現役経産官僚ながら、使用済み核燃料の処理に巨額費用がかかることを告発した『19兆円の請求書』という文書をまとめたとされる人物です。その頃から河野氏と付き合いができ、昨秋の人事で河野氏のタスクフォースに引っ張られました」(同前)

 音声データによれば、レクの冒頭、河野氏は1つ“確認”を行った。

河野「これ、エネ基って閣議決定だろ?」

山下「はい、最終的には閣議決定でございます」

河野「そうだよな。経産省単独じゃ決めらんねぇだろ?」

 閣議決定は全会一致が原則だ。理論上は、河野氏が反対すればエネ基は閣議決定できない。「俺の言う通りに修正しなければ、“拒否権”を発動するぞ」という脅しなのか。

 まず議題に上がったのは、「容量市場」。これは、4年後の発電能力を“値付け”する仕組みのことだ。

「再エネの発電量が不安定になる深夜などの時間帯では、石炭火力発電などの電力を“待機”させる必要があります。ただ、そのためには膨大な維持管理コストがかかる。そこで、将来の発電能力を約束してもらう代わりに、電力会社に対して事前にお金を払う。これを取引するのが容量市場です」(前出・経産省関係者)

 ただ、新規参入の再エネ事業者にとっては、既存の電力会社への支払いが負担となる。そのため、容量市場は再エネ推進派からは目の敵にされているのだ。

河野「どれが容量市場で、どうなったのよ。ちゃんと落ちたのかい」

 エネ基から容量市場に関する部分を削除するよう求める河野氏。エネ庁幹部とのやり取りはこう続く。

小澤「大変恐縮でございますが、私どもとしては受け入れることができません」

河野「じゃあこっちは受け入れられない! はい、次」

小澤「ただ、ただ、大臣、どのような制度であってもですね、完璧はございませんので、効率的なものとなるよう不断の見直しを行うという修文をさせて頂きます」

河野「(言葉を遮りながら)分かったよ! 分かったけどこっちは受け入れられないから。次いって、時間がないから」

 官僚たちの説明を聞こうとしない河野氏。その姿勢はこの後も変わらないどころか、加速していくのだ。

 続いての議題は「原子力発電」。エネ基の素案では、原子力の〈必要な規模を持続的に活用〉すると明記されている。「脱原発」が持論の河野氏はこの文言の修正を強く求めていた。

小澤「これについての修文は梶山大臣ともご相談しましたが、応じられないということでございます」

河野「はい、じゃあこっちも応じられない。はい、次」

小澤「これはあの、原子力推進の立場の方、それから原子力に慎重な立場の方、様々なご議論があって、それを頂きました。これは与党内でもそうですし、産業界でもそうですし……」

河野「いや! 少なくとも内閣府は受け入れられない。はい、次。時間ないから次いって」

 何度も繰り返される「はい、次」「はい、次」。18年の外相記者会見でロシアとの平和条約について問われ、「次の質問どうぞ」を連発し、批判を浴びた河野氏。当時ブログで「反省します」と謝罪したが、それを彷彿とさせる対応だ。

 そして、開始から4分40秒。議題はエネルギーミックスへと移っていく。焦点となったのが、「36~38」という数字だ。

「エネ基の素案では、小泉氏が掲げたように、温室効果ガスの46%削減目標を達成するため、再エネの比率を30年には『36~38%程度』にすると記したのです。これは、現行計画の『22~24%』から大幅に引き上げた数字。19年度の実績(約18%)の2倍に相当します」(前出・経産省関係者)

 河野氏には、まだ不満だったのだろう。前述のやり取りで示したように、河野氏が強硬に求めたのは、「36~38程度」ではなく、「36~38以上」という文言だ。

菅政権の常套手段が河野氏にも

46歳だった09年に総裁選に出馬

「河野氏は『上限』ではないという意味で、『以上』という文言を入れろ、と。ただ、決して上限でないことは素案に明記してありますし、『以上』という文言を入れれば、産業界に『最低でも38%は達成するだろう』と誤ったメッセージを与え、企業の設備投資などにも大きな影響を及ぼしてしまいます」(同前)

 しかし、そうした実情は全く伝わらなかったようだ。

「日本語わかる奴、出せよ、じゃあ!」

 と言い放った河野氏。さらに責め立てていく。

河野「だからこれが上限やキャップでないということは、日本語で36~38以上と書くんだよ」

小澤「えっとですね、それは上限やキャップでないので、実際にそれ以上の数字が見込んでくれば他のものの水準について調整して引き下げることがあるということを別書きで、いま一番右側に書かせていただいているので、それをもって私どもとしては内閣府のご意見を反映させたとしたい」

 そして、お馴染みのフレーズが飛び出すのだった。

河野「はい、ダメ! 次。はい、次」

 会議が始まって23分が経った頃、議題は「日本の地理的条件」に移った。

河野「なんか知らねぇけどさ、日本が再エネ入れるのに不利だ、みてぇな記載がいっぱいあっただろ。あれ、全部落としたんだろうな」

 確かに、エネ基の素案では、日本には再エネを促進しにくい地理的な要因があると指摘している。

小澤「これは事実関係を書いてございますので……」

 と説明しようとすると、河野氏はこう口にした。

河野「じゃあ、北朝鮮のミサイル攻撃に無防備だと、原発は。日本は核燃料、使用済み核燃料を捨てる場所も狭くてありませんと、全部書けよ!」

小澤「ええっとですね……」

河野「全部書けよ!」

 そして、こう畳みかけるのだった。

河野「おめぇ、北朝鮮がミサイルを撃ってきたらどうすんだい。テロリストの攻撃受けたらどうすんだい、今の原発。(再エネだけについて)そんな恣意的な記載を認めるわけねえだろうが! いい加減にしろよ」

 こうして河野氏へのレクは終わった。約28分間の音声で、幾度も繰り返された「はい、次」「はい、ダメ」は計13回に及んだのだった。

 パワハラ問題に詳しい佐々木亮弁護士が語る。

「『日本語わかる奴、出せよ』などの発言はパワハラに当たる恐れがあります。厚労省が作成したパワハラの指針では『精神的な攻撃』という欄で、『人格を否定するような言動を行うこと』と明記されていますが、これに該当するでしょう。こうした高圧的な振る舞いが常態化した場合、官僚からパワハラで訴えられる可能性も出てきます」

 経産省に書面で尋ねると、こう回答した。

「各省協議についてコメントすることは控えさせていただきます」

 河野氏にも書面で事実関係を尋ねたが、期日までに回答はなかった。

 官庁の最高幹部が言う。

「政治家として、脱炭素社会、脱原発社会を掲げるのは一つの方向性です。しかし、そこに至る具体的な提案がありません。本来なら、下の立場である官僚を恫喝するのではなく、大臣として汗をかき、梶山経産相と調整すべきところです。ところが、うまく行かなければ、官僚に責任転嫁する。これは、菅政権の常套手段です。菅首相によって抜擢された河野氏にも、その手法が受け継がれていると言っていいでしょう」

 首相は9月6日に改造と、認証式を予定している。だが、党内の反対で人事ができなくなれば、総裁選出馬を断念に追い込まれる。

「そうなれば、河野氏が一気に最有力候補に浮上し、総裁選に出馬するでしょう」(官邸関係者)

 権力維持に血眼になり、看板政策で内部対立を招く菅首相。この間、コロナ対策は置き去りになったままだ。かくして、日本中枢が崩壊していくのである――。

同じ“神奈川組”の2人

source : 週刊文春 2021年9月9日号

この記事の写真(12枚)

文春リークス
閉じる