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社員入水自殺6日後に“くす玉割り” 岡山放送 現場の40%が「パワハラを感じる」

「週刊文春」編集部
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「会社はいまだ遺族に対して亡くなった原因を満足に説明できず、記者会見を開く予定もない。膿を出し切れるのか甚だ疑問です」

 こう語るのは、社員が車ごと海に飛び込む壮絶な入水自殺を遂げた、フジテレビ系列の岡山放送(OHK)の現役社員・A氏である。

 岡山放送社員の柏田貴一さん(30・仮名)が亡くなったのは7月6日のこと。

「現場は新岡山港のフェリー乗り場近く。直前に響いたアクセル音を目撃者が聞いていること、時速約50キロで減速せず、車止めを越えて海に突っ込んでいることから警察は自殺と断定しています」(社会部記者)

職場で慕われていた柏田さん

 2013年入社の柏田さんは報道記者として事件や災害を熱心に取材していた。だが昨年2月、子会社に出向し、番組制作を担うディレクターに転身。今年3月からお笑いトリオ「ハナコ」の初の冠番組「ハナコのBuzzリサーチ」を担当していた。そこで長時間労働を強いられた挙句、総合演出を務めるX氏から“パワハラ”を受けたことが自殺の原因とみられている。

「X氏から『殺すぞ』『なめてんのか』などと暴言を吐かれ、物を投げつけられたこともあった。亡くなる直前には『お前は今まで関わってきた中で一番ダメなディレクターだ』と罵られ、ひどく落ち込んでいた。X氏は柏田の死後、会社を休んでいます」(前出・A氏)

 小誌は8月26日発売号で、柏田氏の自殺の経緯を詳報。するとその直後、OHKは総合企画局内に、5名からなる“文春対応チーム”を結成した。

「チームは『情報管理』『文書管理』『マスコミ』『視聴者対応』など役割が細分化され、マスコミや視聴者への対応に当たっている。文春の報道後、地元メディアのほか読売新聞やNHKなどが取材に動きましたが、『現在社内で調査中』と回答するようマニュアル化されています」(同前)

社外問合せに対する回答マニュアル

 社内からも真相究明を求める声が上がっている。労働組合にはX氏のケースを含む、これまでの“パワハラ”の告発が次々と寄せられた。社員のB氏が明かす。

「制作現場でX氏から『クソOHKでクソみたいなもん作ってきたからや』『お前、おもんないな』などと言われた社員や、幹部社員から机の下で足を蹴られるなどのパワハラを受けていた社員もいた。また、多くの現場社員が朝から深夜まで働き、疲弊している実態が明らかになりました」

 さらに組合は現場で働く社員へアンケートを実施。そのデータからは、柏田さんの死が起こるべくして起きたことが裏付けられた。

「現場の社員の約40%が、上司からパワハラを感じることがあるという調査結果が出たのです」(同前)

 加えて現在、コンプライアンス担当を務めている幹部は、過去に部下に対して「死ね」などの暴言を吐き、問題になった人物だという。

「なぜ彼がパワハラ問題を調査するのか……。こうした会社の体質を変えるには、相当な労力と根気が必要だと、組合の幹部は危機感を募らせています」(同前)

 9月7日には組合の委員長らが柏田さんの遺族を訪問。そこでも驚くべき事実が判明した。

「会社側は組合に対して、『柏田のご遺族は、会社に対して感謝の気持ちしかないと仰っている』と説明していました。でも実際にご遺族に事情を聞いてみると、亡くなった当初から柏田の死について疑問を呈していたことが分かったのです。会社がご遺族の本当の気持ちを隠蔽していたことに呆れました」(前出・A氏)

 柏田さんの自殺翌日、自身のインスタグラムで〈会社って、人の命や人生をどう考えているんでしょうね〉〈私は許しません〉と記していたのが、同局の元アナウンサー、淵本恭子氏だった。小誌の報道後には、再びこう綴っている。

〈社員が亡くなって1週間も経っていない移転の日に多くの社員の強い反対を押し切ってくす玉を強行したことは、まともで優しい人間のやることとは思えません。このくす玉問題だけでも、パワハラをした本人だけでなく会社の体質自体に問題があると言えると思います〉

 OHK関係者が説明する。

「7月にOHKは新社屋に移転したのですが、柏田の亡くなった日の6日後、新社屋での放送開始を祝うセレモニーが開かれたのです」

ハナコの冠番組が突然終了

新社屋移転を祝う中静社長(OHKのHPより)

 社内からは「柏田が亡くなったばかりだから、さすがに“くす玉割り”は自粛するべきだ」との声が上がっていた。ところが――。

「中静敬一郎社長が自らくす玉を割って祝いました。社内では社長への不信感も高まっています」(同前)

 淵本アナを直撃すると、言葉少なにこう語った。

「インスタグラムに載せたことが全てです。私は自分を育ててくれたOHKに良い会社になってほしいと願っているだけ。柏田が亡くなったことを無かったことにはしないで頂きたい」

 一方、柏田さんが制作していた「ハナコのBuzzリサーチ」については、9月10日に突然、9月をもって終了することがOHKのホームページで発表された。

「表向きは、コロナの感染拡大でハナコさんが来県できないからという理由になっていますが、実際は柏田の死後、人員不足とスタッフの動揺によって番組の運営が事実上不可能になったためです。会社の上層部は番組を続けようとしましたが、子会社の制作会社が『柏田を思い出してしまう』と難色を示したとも聞いています」(前出・A氏)

 さらに、前出のB氏がこう嘆息する。

「実は、ハナコさんの事務所に対して、文春の報道内容や番組終了について詳しい説明をしていないのです。『今後のスケジュールは未定』と伝えていただけ。あまりにも失礼です」

 ハナコの所属事務所に問い合わせると、「OHKさんからは柏田さんが亡くなった件について『調査中』とご説明を受けているだけです。番組終了についてはホームページで発表する前日に伝えられ、理由は聞いていません」と答えた。

 OHKに調査の状況やくす玉割りの件などについて尋ねると、総合企画局長からこう回答があった。

「社内組織である『コンプライアンス・セキュリティ委員会』において、社員のヒアリングや勤務状況の調査を進めております。当委員会では、第三者の立場である法律事務所より意見書を提出いただき、それを参考に最終調査報告をまとめます。弊社新社屋での放送開始の際に行われたくす玉を割るセレモニーについてですが、反対意見も出ましたが、創業52年で初の社屋移転であり、多数の外部会社も参加しており、セレモニーを行いました」

 柏田さんの母は声を震わせながら、こう語った。

「息子は幼い頃に父をガンで亡くしたんです。それからというもの、『ぼくがお母さんに親孝行するからね』とことあるごとに励ましてくれました。念願のテレビ局の報道記者にもなることができて、私が考えていた以上に立派に育ってくれて安心していたのです。49日が終わっても納骨することができず、1日1日が本当に長く感じられて、苦しいです。間もなく会社の調査結果が出ると連絡を受けました。きちんとした報告がくると信じています」

 柏田さんの仏前には、自殺の経緯を報じた小誌が供えられているという。

柏田さんが自殺した現場の港

source : 週刊文春 2021年9月30日号

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