「mRNAワクチンとは?」|池上彰

池上彰のそこからですか!? 第497回

池上 彰
ニュース 社会 国際 医療

 今年のノーベル生理学・医学賞を受賞するのではないかと事前に大きな話題になっていたのが、ハンガリー出身でアメリカ在住の研究者カタリン・カリコ氏です。彼女の長年の地道な研究によって、ファイザーやモデルナのmRNAワクチンが実用化されたからです。NHKや新聞各紙も事前に「受賞が有力」として紹介しました。結局、今年は受賞しませんでしたが、ノーベル賞の受賞には長い時間が必要ですから、来年こそ受賞するかも知れません。

 この事前の報道で、mRNAが脚光を浴びました。mRNAとは「メッセンジャーRNA」のこと。高校の生物の教科書には「伝令RNA」と表記されています。いまやすっかり有名になったmRNAについて、基礎から解説しましょう。

 今回は増田ユリヤ著『世界を救うmRNAワクチンの開発者 カタリン・カリコ』(ポプラ新書)の受け売りです。詳しい内容を知りたい方は同書をお読みください。

 まずはファイザーとモデルナのワクチンの仕組みについて。新型コロナウイルスには、まるで王冠(コロナ)のように多数の突起があります。人間の細胞には、他の細胞との間で情報を交換するための鍵穴のような穴が開いています。ウイルスが人体に入り、突起が鍵穴にピタリとはまれば、ウイルスは細胞に侵入。細胞を乗っ取って、ウイルスのコピーを作らせます。これがウイルスの増殖です。大量のウイルスが製造されると、ウイルスは細胞を飛び出して、別の細胞に入り込みます。ウイルスが飛び出した細胞は死滅してしまいます。こうして多数の細胞が破壊されることで、重症化してしまいます。

 それでも一命をとりとめれば、人間はウイルスの突起を記憶します。そして、次にウイルスが侵入してきたときに、突起が鍵穴に入らないように妨害する物質を作り出します。これが抗体です。この抗体が作られることによって、人間は「免疫ができた」と言うのです。

 ファイザーやモデルナのワクチンは、ウイルスそのものではなく、ウイルスの遺伝子のうち、突起を作る機能を持つ部分だけを人工的に合成しています。この合成されたものを人間の体内に運び込む、これがmRNAです。情報を伝達する存在というわけです。

 ワクチンを注射して、mRNAが人間の細胞に入ると、「突起を作れ」という命令を伝えます。人間の細胞がウイルスの突起部分を作り出すことで、人間の免疫機能は、「ウイルスが入って来た」と誤解。大量の抗体を作り出します。その結果、人間は新型コロナウイルスに対する免疫を獲得するのです。

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source : 週刊文春 2021年10月21日号

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