週刊文春 電子版

衆院選「激突ルポ」——「岸田は二階と同じ」、安倍が怒った、小沢一郎ピンチ、比例に小川彩佳の元義父

「週刊文春」編集部
ニュース 社会 政治

 10月19日に公示された衆院選。4年ぶりの決戦は、首相と元首相が激突した公認争い、大物も危うい熾烈な与野党バトル、そして意外な人物も参戦して幕を開けた。全国を飛び回り、注目選挙区の候補者を連続直撃する!

「公認候補でなくなることはあり得ないと思っている」

 今年6月25日、まだ菅政権だった頃、前橋市内でそう述べたのは安倍晋三前首相だった。細田派所属の尾身朝子氏と、二階派所属で比例区選出だった中曽根康隆氏が激しく公認を争っていた群馬1区。安倍氏は尾身氏が17年の選挙に続き、小選挙区候補として必ず公認を得られると“お墨付き”を与えたのだ。

 それから4カ月弱。蓋を開ければ、岸田政権下で、小選挙区の公認を得たのは中曽根氏だった。尾身氏は比例に回り、面子を潰された形の安倍氏。周辺に、

「現職優先じゃないのか」

 と憤るのだった――。

苛立ちを募らせる安倍氏

「今回の選挙は未来選択選挙です」

 10月14日夜、解散直後の記者会見に臨んだ岸田文雄首相。5日後の10月19日、公示日を迎え、4年ぶりの決戦が幕を開けた。

派閥拡大を目論む岸田首相

「自民党内で焦点となっていたのが、調整が難航した8選挙区の公認争いです。中でも群馬1区は、岸田氏が解散を表明した14日時点でも決着が付いていませんでした」(政治部デスク)

 尾身氏を強く推していたのが、安倍氏だ。解散当日の10月14日も甘利明幹事長と会談し、公認を得られる感触を得ていた。尾身氏側に連絡を取り、「公認は決まった」と“内々定”を出していたという。

 だが、事態は一変。翌15日夕、岸田首相、甘利氏、麻生太郎副総裁らが会合を持ち、公認は中曽根氏に決まったのだった。

「自民党の情勢調査で中曽根氏が尾身氏を10ポイント以上引き離していることも、決め手の一つになったようです」(同前)

 10月17日、当の中曽根氏に話を聞いた。

――安倍氏は「尾身氏に決まった」と。

「(安倍)総理がここに来て『尾身さんしかない』と仰ったのは、派閥の関係です。こちらも二階(俊博)幹事長に来て頂きました。15日朝の報道でも尾身さんに決定とありましたが、深刻に受け止めたわけでもない。仲間と信じて待っていました」

二階派は冬の時代へ

――岸田首相と安倍氏が対立するのでは?

「私は何の思いもない。どういうプロセスで私に公認が下りたかは何も聞かされていません」

 だが、安倍氏は岸田首相の“裁定”に対し、前述のように憤りを示している。

「それには、理由があります。安倍政権下でも、公認を巡って衝突した選挙区がありました。しかしそうした選挙区では全て双方無所属で戦わせ、勝った候補に党の公認を与えた。統一ルールがありました。ところが今回は現職優先と思いきや、情勢調査の数字を重視したりする。安倍氏は組閣でも希望が通らなかっただけに、輪をかけて『恣意的に決められている』という思いが強いのです」(安倍氏周辺)

 実際、同じく保守分裂の様相だった長崎4区や静岡5区では、群馬1区とは対照的に情勢調査ではなく自民党の現職が優先された。

「いずれも、自民党の公認を得たのは岸田派の候補者です」(前出・デスク)

 長崎4区の現職は、岸田派の北村誠吾元地方創生相。だが、閣僚時代に「47都道府県を回って相当ホラを吹いてきた」などと失言を重ねた北村氏に県連が反発し、瀬川光之県議を公認申請する事態に発展していた。県連幹事長の山本啓介県議が語る。

「年齢も含めて色んな人から『北村さんを変えたらどうか』と意見が出ていた。県連独自に情勢調査をかけたら(北村氏の地元の)佐世保市ですら立憲の方が良いという声がありました」

 自民党の情勢調査でも瀬川氏が北村氏を上回っていたが、15日に発表された2次公認リストに名を連ねたのは北村氏だった。

 翌16日、本人に聞いた。

――首相に公認を頼んだ?

「直接お願いしてはおりません。極めて親しい間柄である小野寺(五典)さんを通じ、私の件はきちんと伝わっていると思います」

――地元県連は反対だった。

「北村の大臣時代の答弁ぶり、あるいは、ホラふいたとかいうことがニュースになり、懸念を持った方が沢山いたというのは事実でありましょう。が、刑事事件でスキャンダルになったり、クビにしろというほど重大な、常識外れのことをしたわけじゃないだろう」

候補者に公認証書を授与

東京18区で「菅vs.菅」が勃発

 逆に、静岡5区で小選挙区の議席を確保してきたのは、無所属ながら二階派会員の細野豪志氏。岸田派の吉川赳氏は細野氏に3連敗しており、うち2回は比例復活もできなかった。今回も自民党調査では、20ポイント以上離されている。

「自民党には、同じ選挙区で2回続けて敗れ、比例復活した場合は比例重複立候補を認めないという原則があります。ところが吉川氏は、なぜか比例重複が認められた。岸田派だから“特別扱い”されたと囁かれています」(与党担当記者)

 吉川氏に尋ねると、

――情勢調査では劣勢だ。

「サンプル数も多くないし、正確性の問題もありますよね。愚直に政策を訴えていくしかないですよね」

――岸田派だからか、比例重複の特別扱いだが?

「総理は派閥の会長ですので、気にかけて頂いていると思っています」

――公明党は自主投票だ。

「保守分裂がその理由ですが、私は相手(細野氏)を保守とは思っていません」

 自民党幹部が言う。

「二階幹事長時代、自派閥を優先させるような党運営を岸田氏は批判してきました。だからこそ、党役員に任期を設け、二階氏の排除に踏み切った。ところが、今回の公認争いで岸田首相がやっていることは二階氏と同じです。北村氏や吉川氏に公認を与えれば、比例復活の可能性も高まる。岸田派の拡大に繋がるのです」

 広島1区の岸田首相が最も力を注ぐ選挙区の一つが、河井克行元法相の広島3区。安倍首相・二階幹事長下の参院選で、河井氏の妻・案里氏に1億5000万円が投じられ、岸田派の溝手顕正氏は落選している。

「3区の後釜として、公明党が斉藤鉄夫国交相を小選挙区に鞍替えさせました。支持母体・創価学会の原田稔会長も衆院選前に地元に入り、ファーストレディの裕子夫人も事務所開きで『大変に厳しい選挙が予想されております』とマイクを握った。河井事件の影響が残るだけに、必死の選挙戦です」(公明党関係者)

 斉藤氏に話を聞いた。

――河井事件の影響は?

「もう与党は信用せんという人も結構まだいらっしゃる。郡部の保守層でも選挙に行かんという人もいる」

――選挙戦では、被買収人になった自民党の地方議員の力は借りてない?

「そこは一切近寄ってないです。今回、保守系の人たちは、全くあの事件と関係のない人しか応援してもらってないので、そこが弱いところでもあります」

――原田会長が広島入りしたというが、どんな話を?

「会長とは私、直接お話ししてないんですよ、はい」

 一方、「菅vs.菅」の激突が勃発したのが、東京18区だ。立憲民主党の菅直人元首相が長らく議席を守る地盤に、菅内閣でも防衛政務官を務めた長島昭久氏が東京21区から鞍替えして、自民党から出馬する。

 長島氏が言う。

「18区に決まった時はビックリした。(初出馬で)落選した時は菅さんご夫妻に凄く支援してもらった恩義がある。21区は中選挙区時代の菅さんの選挙区で、名簿も引き継いだ。でも決まった以上は、立憲と共産の政権にしてはいけないという戦いなので」

 選挙戦を優位に進めている時は「遊説も伸子夫人任せ」(立憲関係者)と言われる菅氏だが、長島氏の追い上げを受け、10月15日には自ら街頭に立っていた。

 菅氏に話を聞いた。

小沢氏を地元で直撃すると……

――長島氏と戦うことに。

「彼が自分の選挙区を捨てたんですよ。うちの家内と(一緒に)紹介した人も一杯いた。でも本人から、何らかの説明があったことは一度もありません」

 2日後の10月17日には長島氏の応援演説に、もう一人の「菅」が駆け付けていた。菅義偉前首相である。

「菅氏は長島氏が自民党入りする際、『二階派に入ったらいい』と助言した関係。ただ、菅氏の応援は追い上げムードに水を差しかねません」(自民党関係者)

 応援演説では、30分間ほどコロナ対策の実績とマスコミ批判を展開した菅前首相。本人を直撃した。

――なぜ18区の応援に?

「……」

――菅(かん)氏に勝てますか?

「はい、勝てます!」

 そう笑顔で答えた。

 一方、立憲の比例名簿には意外な人物が名を連ねた。近畿ブロックから出馬する豊田潤多郎氏。豊田氏の長男はメドレー創業者の豊田剛一郎氏、小川彩佳アナの元夫だ。つまり、豊田氏は小川アナの元義父に当たる。

選挙特番の司会も務める小川アナ

「元大蔵官僚の豊田氏は93年に新生党から出馬して初当選。以来、新進党から生活の党に至るまで、小沢一郎氏と行動を共にしてきました。14年に落選してからは、家業である医療法人(売上高約5億円)の理事長として病院を経営していた。今回は7年ぶりの出馬です」(立憲関係者)

 京都府連を通じ、豊田氏に出馬の経緯を尋ねたが、

「回答はできかねます」

 比例名簿の“小沢印”は豊田氏だけではない。小沢氏の元秘書でもある北出美翔氏、川島智太郎氏。さらに、“ぶってぶって姫”こと姫井由美子氏も比例中国ブロックから出馬する。

 姫井氏の電話を鳴らすと、

「去年12月から衆院選に向け、(小沢氏に)ご相談をさせて頂いた。小選挙区は間に合うかなというのもあり、色々小沢さんと相談し、最終的に比例になった。『最後までやり抜こう』と言葉をもらっています」

“ぶってぶって姫”も参戦

 だが、立憲幹部が言う。

「彼らは小選挙区の調整がつかず、比例に回ったのが実情です。当選の可能性はかなり低いでしょう」

 では、現職最多18回目の当選を狙う当の小沢氏はどうか。岩手3区の対抗馬は、四度目の激突となる自民党の藤原崇氏だが、

「小沢氏は、同級生で作った選挙の実働部隊『一友会』が有名ですが、高齢化で活動が鈍化している。かたや藤原氏は小まめに地元に帰り、後援会組織を拡大していました」(地元関係者)

 かつてないピンチに陥っている小沢氏。1969年の初当選以来、実に52年ぶりに公示日初日の第一声を地元で上げた。

 小沢氏を直撃した。

――今回は激戦ということで、地元入り?

「そうです。何十年ぶりかな。俺、覚えてないわ」

――勝てますか?

「……」

18選を狙う小沢氏はどうなる

 無言で何も答えなかった。

 仁義なき戦いは、10月31日まで続く。

「万歳三唱」で衆院解散

source : 週刊文春 2021年10月28日号

文春リークス
閉じる