小さな冒険がしたい。そんな誘惑に駆られたことはないですか。都会を離れ、知らない土地を歩いてみたいというささやかな夢。

 人を裁くことに疲れた真野日出子(片桐はいり)は裁判官を辞め、憧れの南の島へ。でも飛行機恐怖症だから、船に乗れば何時間かで行ける伊豆の大島へ。

 都心から一二〇キロ。コンビニも大手スーパーもない。客船を降りる客は少なく、島は予想以上に寂れて見える。たまたま知り合った島の娘、小宮山渚(工藤綾乃)は静かに語る。

「ここは放置された東京。あるのは火山、海、ゆっくりと流れる時間」

 渚は二十五歳。祖父から受け継いだ「風待屋(かぜまちや)」という居酒屋と、くさや工場を一人で営んでいる。渚は無口で余計なことは喋らない。感じの悪い客が来ると、黙って睨む。正義感の強い日出子は質(たち)の悪い客には、とことん説教する。

片桐はいり ©文藝春秋

 そんな二人がなぜか気が合って、渚から「ここにいれば」と言われ、日出子は店のバイトに。女同士、ベタベタはしない、さっぱりした相棒の誕生だ。

 寂れた島といっても、訳ありの客も来れば、こじらせた男や女も来る。前田敦子が純白のウェディングドレスを着て、一人で島に降りたった回は仰天した。マッチング・アプリで知り合った男に結婚詐欺で騙されて、喚き散らす姿は、さすが敦ちゃん、絵になる。

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source : 週刊文春 2021年11月4号