先月のこのコーナーで、岸田文雄首相の「新しい資本主義」について取り上げ、まるで1960年のことのように思えると書きました。当時は岸信介内閣が推進した安保条約改定をめぐり、政界は大混乱。国会に警官隊が導入され、改定反対を主張する野党議員を排除する騒ぎになりました。国会議事堂の周りには「安保反対」のデモが渦巻きます。ところが、安保改定を実現すると、岸内閣は退陣。代わって総理に就任したのが池田勇人です。岸内閣で日本国内は政治的に分断が進みましたが、池田内閣は「所得倍増計画」を掲げて国民の融和を目指しました。これを契機に、日本は「政治の季節」から「経済の季節」へと転換した、という話でした。
池田内閣は、総理に就任した年に解散総選挙に踏み切ります。慌てたのが野党第1党の社会党。格差の是正・貧困対策を訴えていたのに、池田の「所得倍増計画」で影が薄くなったからです。どうですか。今回の選挙でも野党第1党の立憲民主党は苦戦しました。似たような構図になったと思いませんか。
岸田内閣は、早速「新しい資本主義実現会議」を発足させ、会議は11月8日、「緊急提言」をまとめて発表しました。1回目の会議が開かれたのが10月26日ですから、良く言えば猛スピードで、悪く言えば拙速にまとめた内容ということになるでしょうか。
中身を見ると、「成長戦略」として、実に多数の目標を掲げています。「科学技術立国の推進に向けた科学技術・イノベーションへの投資の強化」ですとか、「デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進」だとか、「クリーンエネルギー技術の開発・実装」などが掲げられています。
出た!「実装」という言葉。私たちは、ふだんこんな言葉を使いませんが、霞が関の官僚たちのお好みの言葉なのです。彼らがひっきりなしに使うので、最近は民間企業の中でも使われるようになりました。要は「実際に使えるようにします」というだけの意味なのですが、なんとなく格好いいと思っているのでしょうね。
この「緊急提言」の冒頭には、提言に至った認識が、次のように述べられています。
「具体的には、1980年代以降、短期の株主価値重視の傾向が強まり、中間層の伸び悩みや格差の拡大、下請企業へのしわ寄せ、自然環境等への悪影響が生じていることを踏まえて、(中略)全てを市場に任せるのではなく、官民が連携し、新しい時代の経済を創る必要がある」
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source : 週刊文春 2021年11月25日号