岸田政権が今国会に「経済安全保障推進法案」を提出する。朝日は「経済安保法案 懸念含み」という1月28日付朝刊の記事で同法案を「目玉政策」と書いているが、そのわりには底が浅い。

 法案の柱は「サプライチェーン(供給網)の強化」「基幹インフラの事前審査」「先端技術の官民技術協力」「特許非公開」の4つである。このうち供給網の強化とは、国が半導体や医薬品、レアアースなどを重要物資に指定して、企業の国内生産基盤の投資を財政支援することなどを念頭に置いている。

 これに対して朝日は「懸念含み」の記事で半導体を例に挙げ、「ただ、政府丸抱えの産業政策は危うさもはらむ」と指摘する。理由として、かつて経済産業省が支援した半導体メーカー、エルピーダメモリが経営破綻したことを挙げているが、10年前の国内半導体メーカーの経営問題と、現在の経済安全保障問題を同列で論じるセンスが嘆かわしい。

 あえて詳しく触れないが、経済安全保障の最前線に立つ知り合いは、かなり神経質な毎日を送っていて、「気兼ねなく犬の散歩ができるような日常を過ごしたい」とぼやく。それが現実だというのに、朝日は国丸抱えの半導体メーカーが国際競争力を維持できるかが懸念材料と書く。

 エルピーダは日の丸半導体と期待されたというような記述もあるが、「日の丸半導体」とは1980年代に世界を席巻した日本の半導体産業の代名詞だ。

 かつての半導体王国が今や見る影もなく、足元で台湾メーカーに依存せざるを得なくなったのは産業政策の失敗によるところが大きい。経産省には重い責任があるはずだが、同省がこの期に及んで経済安全保障推進法案で中心的役割を担っていることを問題視しないのか。

 平和ボケ丸出しで、産業政策の変遷に対する理解不足を露呈しているメディアが、これから北京五輪で日本選手の活躍を報じることになる。

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source : 週刊文春 2022年2月10日号