石原慎太郎氏の死を伝える2日の各紙朝刊を読んで、オーソン・ウェルズが監督・主演を務めた古典映画「市民ケーン」を思い出した。
実在した米国の新聞王がモデルだ。彼が死に新聞記者が関係者を回るが、みな自分が見た表層の部分的な横顔を証言するだけ。純真さと横暴さを併せ持ち世論を掻き回した怪物の正体は分からない。
石原氏の訃報記事もそっくりだ。各部が縦割りで原稿を垂れ流し、しかも、みな「物議を醸す」「人気作家」などステレオタイプの切り口に終始するから始末に負えない。
例えば毎日は、一面に「89歳 作家・元都知事」と味気ない総花的な本記があり、五面は政治部お得意の「『戦後の概念に挑戦』」「政界から悼む声」との反応記事だ。東京面は都知事の足跡だけで、スポーツ面も「理念なき『復興五輪』」「招致再挑戦 課題残す」とあくまで担当主義だ。
社会面も「『石原節』物議醸す」とした政治家・石原の辛口評と「下積みなし文壇デビュー」とする作家・石原の甘口評が泣き別れだ。「敵がい心が根底に」と題した「評伝」も、結局は政治話が大半だ。作家話は「ライジングサンの時代だったなあ」と芥川賞を受賞した高度経済成長期を懐かしんだという挿話ぐらいで、拍子抜けした。
石原氏死去を巡っては、社民党の副党首らが「差別」発言を指弾したことで、功罪の罪を訃報時に論(あげつら)うことの是非が論争になった。だが、それ以前の問題ではないのか。
そもそも戦後の日本社会を突き動かし得た「怪物」の正体を探る意志が感じられないのだ。あるのは「自主憲法追求した政治家人生」(産経の一面)や「尖閣国有化を推進 反日感情招く」(朝日の社会面)など各紙の好悪だけだ。
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source : 週刊文春 2022年2月17日号