「霜鳥さん、私、このピンク、似合ってますか?」カラー診断中、鏡の前にいるお客様からのご質問。「お似合いですよ〜。素敵! ご自分でも見て『いいな!』と思うでしょ?」と伝えると「私、鏡が見られなくて」とお客様。「小さい時、母から、あなたは可愛くないんだからピンクは似合わないと言われて、青ばかり着させられていました。それ以来一度もピンクは着ていないんです」。愕然としました。そんな呪いをかけられて、これまでどんなに辛かったことでしょう。泣きそうになるのを堪えながら診断を続けたことを覚えています。
後にその方は、醜形恐怖症と診断されました。長い時間をかけて一緒に向き合い、少しずつ緩和して、今はピンクも着られるようになられました。母子の関係は近いので、相手を想う気持ちとこうあって欲しい気持ちが折り合わなかった時、強烈なこじれ方になるのかもしれません。着るものを選ぶ、という事の裏に、親子の関係性が見え隠れするものだなと、この仕事をして痛感します。親にこれを着せてもらった、という幸せ物語も多く聞きますが、学校で服の教育がない以上、親が自分の物差しで着せ、子もその影響を受けざるを得ないわけです。
「私が一番知っているんだから」と娘が着るものを全てジャッジする親と、考える事をやめてしまった20代のお嬢さんにも会いました。お嬢さんはこちらがどう褒めても反応が薄く、自己肯定感が低いように見受けられました。親からしてみれば従順に見えて可愛く、世話をやいているつもりなのかもしれません。しかし実態は支配やコントロール。いつまでもそうしているわけにはいきません。
お嬢さんのショッピングについてくるお母様に対して、私が取った行動は、お嬢さんに話をしているフリをして、実は、お母様にメッセージを伝えるやり方。それも感情論ではなく、プロとして。お母様のこれまでのご苦労を労(ねぎら)い、新しい可能性を服で見せながら、「成人しているんだから、自分が似合う服・好きだなと思える服は、試行錯誤してでも知らなきゃね」「自分と子供は違う。ご自身が親になった時は、それを子供に伝えていかなきゃいけないんだから、ここでしっかり、自分で決めていきましょう」と伝えました。その後は「霜鳥さんにお任せします」とお母様はいらっしゃらなくなりました。
親が派手で、それがイヤで私は紺・茶・黒しか着ません、という方もいました。詳しくお話を伺うと、授業参観で恥ずかしい思いをして、自分はそうはなりたくないと思ったとのこと。ただ、好きで着ているのならいいのですが、あてつけのような感じで落ち着いた色を着ていたその方は、お世辞にも幸せそうなお顔ではありませんでした。パーソナルスタイリングにいらしたということは、変えたいと思っているという事ですよね。その方はお母様と似ていて、本来は華やかな色みが似合う方でしたので、彼女のキャラクターに合った華やかなコーディネートをさせて頂きました。
かくいう私も高校生の親。私と違い、黒髪刈り上げショートにイヤリングの娘をかっこいいなと思いますが、想像を超えたファッションを愛す娘だったら、果たして受け入れられたのだろうか。好きなものを着る精神的効果はわかっているつもりですが、いざ身内となると、プロでも色々考えてしまいますよね。あ〜私も人並みの親。
(しもとりまきこ (株)SPSO代表パーソナルスタイリスト。著書に『洋服で得する人、損する人』など。バンタンデザイン研究所講師や、企業・学校の制服デザインに加え、身嗜み含めたトータルプロデュースも行う。)
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source : 週刊文春 2022年4月21日号