アカデミー賞授賞式でウィル・スミスがコメディアンのクリス・ロックをビンタした。脱毛症で丸坊主にしていた妻ジェイダをクリスが「『G.I.ジェーン2』に出てよ」とからかったからだ。
だが、そもそも、日本ではクリス・ロックがどんな人物か、ほとんど知られていない。単なる悪フザケの芸人だと思っている人も多いだろう。
実はクリス・ロックはスタンダップ・コメディアンとしては全米トップ。マイク1本でしゃべるだけのライブで、マジソン・スクエア・ガーデンを3日間ソールドアウトにするほど。その純資産は6000万ドル(74億円)。もちろんウィル・スミスの3億5000万ドル(430億円)には遠く及ばないが。
この二人のスーパー・スター、比べてみると実に対照的だ。
ウィル・スミスは1968年生まれ、フィラデルフィアで育った。父はスーパーマーケットの冷蔵庫を設置、管理する会社で成功した経営者。母は名門カーネギー・メロン大学を卒業している。幼い頃から、スポーツ万能、成績優秀、背が高くハンサムなウィル・スミスのあだ名はプリンス・チャーミング(可愛い王子様)。白人の多い高校でも学園一の人気者で優等生。名門MIT(マサチューセッツ工科大学)の入学資格もあったが、18歳でラッパーとして売れちゃったのでMITには出願しなかった。
ウィル・スミスはデビューしてすぐに20歳でグラミー賞受賞。22歳でTVコメディ『ベルエアのフレッシュ・プリンス』に主演して、これも大ヒット。その勢いで映画に進出。『インデペンデンス・デイ』(96年)と『メン・イン・ブラック』(97年)で続けてエイリアンから地球を救い、どちらも全世界でメガヒット……。まさに順風満帆。
いっぽう、クリス・ロックの人生は苦難の道だった。1965年に生まれ、ニューヨークの下町、ブルックリンに育った。父はトラック運転手。クリスのきょうだいは7人もいて、生活は苦しかった。地元の学校が荒廃していたので、バスを乗り継いで遠くの学校に通ったが、そこでクリスはイジメられた。彼は背が低く、やせっぽちで、運動神経が鈍かった。音楽の才能もなかった。
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source : 週刊文春 2022年4月28日号