「若い頃は地元の祭りにもよく出てくれました。10年ほど前にもたまたま祭りの日に『渡辺裕之が帰って来ている』という話が広まり、店の前に数100人集まってしまって。裕之ちゃんは店の表のベンチの上に立って、リクエストに応え『ファイト一発!』と。もう大喝采で、アンコールまで応えてくれた。商店街の太陽みたいな存在でした」(幼馴染の中島きみ子さん)
茨城県水戸市の商店街に佇む実家の写真店「影光堂」の前で、ハーレーと共に微笑む少年と男性。写真は、5月3日に急逝した俳優・渡辺裕之の往年の姿だ。享年66。自ら命を絶った。
外国人モデルのマネージャーから俳優に転身し、26歳で映画『オン・ザ・ロード』の主役に抜擢されデビュー。1986年の主演ドラマ『愛の嵐』がヒットし、一躍注目を集めた。ドラマ嵐シリーズで演出を担当した松生秀二監督は「ナベは自分に厳しいところがあったから」とその死を悼む。
「ある撮影で、私がカット、OKと言うと、ナベが唸って倒れたことがありました。石段の角に膝を強打して真っ赤に腫れあがっていたんです。膝の皿が割れていたかもしれないのに演技を続け、カットがかかるまで誰にも痛みを悟らせなかった。とにかく一生懸命で真面目。緑山スタジオの一角には彼の筋トレグッズがずらりと並び、お昼は必ず卵白を飲んでいました。そして余った黄身を私の納豆にぽんと入れてくれるんです」
CMのイメージを大切に、晩年まで体を追い込み続けた渡辺。十分鍛えているように見えても、「左上半身に筋肉がつきづらくなった」と、ある時から露出を嫌がるようになったほど、高いプロ意識を持っていたという。ゴルフにドラム、似顔絵に至るまで、いずれも人並み以上になるまでのめり込み、多彩な才能を発揮した。
しかしそんな彼にも、一つだけ弱点があった。
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source : 週刊文春 2022年5月19日号