「初稿から2稿、完成稿に至る過程で、我々も『鎌倉時代はこういう時代だった』と提言します。それを三谷さんが自在に取り込んで、魅力的なセリフ、役柄を生み出してくれるんです」
そう語るのは、ドラマの時代考証を手掛ける坂井孝一氏(創価大教授)だ。
最新の歴史研究を取り入れているのが、鎌倉殿の特徴だ。義経が兄・頼朝の不興を解くために綴ったとされる詫び状「腰越状」。平宗盛が“代筆”したという新解釈が反響を呼んだ。
「腰越状は『吾妻鏡』でしか触れられておらず、近年では偽書だという説が濃厚です。ただ、その存在を信じる視聴者も少なくない。このドラマは、新学説もどんどん打ち出すけれども、旧来の説を信じている方にも配慮するというスタンスです。そこで三谷さんが編み出したのが、腰越状自体は存在するものの、宗盛の代筆として、頼朝の猜疑心を煽るという筋書きでした」
世間では義経が活躍したイメージが強い「鵯越(ひよどりごえ)の逆落とし」を巡っても、
「近年では、義経ではなく、多田行綱という摂津源氏の武士がやったとされています。そこで景時を相手に、義経に『鵯越の方が響きがいい。馬に乗って駆け下りた方が絵になる。歴史はそうやって作られていくんだ』というセリフを言わせたわけです。最新研究を生かしつつ、一般の視聴者の見方に配慮する姿勢も大事にしています」
一方で、史料が限られている人物もドラマでは重要な役割を担う。頼朝の最初の妻・八重だ。父に離縁させられ、息子・千鶴丸も殺害される。その後、家人だった江間次郎に嫁ぐ。
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source : 週刊文春 2022年6月16日号