「ハヤシさん、子どもの頃に会った有名人というのが、その後の人生に大きな影響を与えてくれるってことがありますよね……」
雨の京都、寂光院を歩きながら、小学館の編集者、H氏がしみじみと言った。
私はここの「和樂」という雑誌で、平家物語の超訳といおうか物語化をやっているのであるが、今回は京都に取材とグラビア撮影のためにやってきたのだ。
H氏とは長い長いつき合いになる。髭をたくわえたおしゃれな彼が、女性ファッション誌の編集長をしていた時からだ。
ここで働く女性を主人公に連載小説を書いた。それがベストセラーになりドラマ化されたのも、二人の大切な思い出だ。本もドラマも大きな力を持っていた最後のときであろう。
が、彼は今、日本の美や文化を特集する「和樂」という雑誌を手がけている。その方面の知識や教養も半端ない。こうして古い寺をめぐっても、彼の口からさまざまな興味深い話が出てくる。
「ハヤシさん、僕は仏像の写真を眺めたり、スケッチしたりするのが大好きな変わった子どもだったんです」
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source : 週刊文春 2022年7月7日号