アメリカは、本当に「三権分立」の社会なのだろうか。そんなことを考えてしまうのは、最近の連邦最高裁判所の判断が論議を呼んでいるからです。大統領が、自分の考え方と同じ人物を最高裁判所の判事に任命することで、従来の憲法判断を覆してしまうことが可能であることを示したのです。
6月24日、アメリカ連邦最高裁判所は、1973年に当時の最高裁が人工妊娠中絶の権利を認めた判断を覆しました。今回の判決を、「妊娠中絶は認められない」という判決だと勘違いしている人もいるようなので、ここは整理しておきましょう。
今回の判決は、妊娠15週を過ぎた胎児の中絶を禁止するミシシッピ州の州法を合憲と判断しました。これはミシシッピ州の中絶禁止の法律が憲法に違反しないと判断しただけで、すべての州で中絶を禁止すべきだと言ったわけではありません。今回の判決は、「憲法は中絶について何も言及していないので、憲法が中絶の権利を認めているわけではない。中絶を認めるかどうかは有権者と、選挙で選ばれた代表の判断に委ねるべきだ」というものなのです。
つまり、中絶を認めるかどうかは、各州の州議会が判断すべきだというわけです。
これまでは1973年の憲法判断で、中絶を選ぶかどうかは国家から個人の行動が制約を受けないプライバシー権に含まれているとされていました。そして、胎児が子宮の外で生存できるようになるまでは中絶は認められると判断していました。この基準は、現在の医療水準では「妊娠22週から24週頃よりも前」とされています。逆に言えば、それより後の中絶は認められていないということでもあるのですが。
今回の憲法判断で、各州の州議会は、中絶を禁止する法律を自由に制定することができるように。その結果、早くもケンタッキー州やミズーリ州など七つの州では中絶が禁止されました。こんなに早く禁止できたのは、事前に最高裁の判断次第で直ちに効力を発揮することができるよう法的準備をしていたからです。
これらの州では、たとえレイプや近親相姦による妊娠であっても中絶は認められません。さらにテキサス州の法律は、中絶手術をした医師は最高で終身刑になる可能性まであるものになっています。また、オクラホマ州では中絶手術をした医師や、その支援をした団体や人物を個人が訴えることも可能です。
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source : 週刊文春 2022年7月14日号