中央アジアのカザフスタンで、政府への抗議行動が激化し、ロシア主導の治安部隊が鎮圧に派遣される事態になりました。治安部隊は、その後、引き上げたと報じられていますが、抗議行動を機に、今度は現職の大統領が前大統領を批判。これまで政情が安定していたカザフスタンで異変が起きています。

 カザフスタンは、かつてソ連を構成していた15の共和国のひとつ。当時は「カザフ・ソビエト社会主義共和国」と呼ばれていました。「共和国」という名称を見ると、まるで独立国家のように思えますが、実態はソ連共産党に支配されたソ連の一部でしかありませんでした。

 1991年にソ連が解体したことで、独立国家になりました。「スタン」とは「~の国」という意味で、カザフスタンとは「カザフ人の国」を意味します。カザフ人はトルコ系の民族で、国民の多くはイスラム教徒です。ただ、ソ連時代、宗教が抑圧されていたこともあり、カザフスタンとして独立した後も、必ずしも宗教色は強くありません。朝鮮族も多く住み、私が2012年にカザフスタンに取材に入ったときは、豚肉を食べさせる朝鮮料理の店も多くありました。

 なぜ朝鮮族が多く住んでいるのか。それは、1937年にスターリンが強制移住させたからです。ソ連は朝鮮とも国境を接し、国境沿いに朝鮮族が住んでいました。日ソ関係が緊迫する中、病的に猜疑心の強かったスターリンは、ソ連国内の朝鮮族が日本軍の味方をするのではないかと疑い、カザフに追放したのです。

 同じくスターリンは、第二次世界大戦でドイツ軍の侵略を受けると、チェチェン人たちがドイツの味方をするのではないかと恐れ、チェチェン人もカザフに強制移住させています。当時のソ連にとって、カザフは砂漠の不毛の地。敵に回るかも知れない民族を追いやっておくには適した場所だと考えていたのです。

 その結果、現在のカザフスタンは、多民族が住む国家になっています。

 また、ソ連時代の核実験場になったのもカザフのセミパラチンスクでした。さらにバイコヌールはソ連の宇宙ロケットの発射場でした。ソ連が崩壊した後、ロケット打ち上げはロシアが担当するようになりましたが、国際宇宙ステーションへのロケット打ち上げの基地としてカザフスタンから土地を借りています。実業家の前澤友作さんらが打ち上げられたのも、このバイコヌールでした。

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source : 週刊文春 2022年1月27日号