週刊文春 電子版

「世界の10大リスク」とは|池上彰

池上彰のそこからですか!? 第508回

池上 彰
ニュース 社会 政治 経済 国際

 2022年の世界が抱えているリスクとは何か。新年早々日本のメディア各社は「ユーラシア・グループ」が提示した「2022年の10大リスク」を報じました。その一番のリスクに、「中国のゼロコロナ政策の失敗」が挙げられたのです。意外な感想を抱いた人もいることでしょう。そこで今週は、ユーラシア・グループの発表に依拠する形で、今年起きそうなリスクについて考えてみましょう。

 まずは発表主体のユーラシア・グループについて。これはアメリカの国際政治学者のイアン・ブレマー氏によって設立された政治リスクに関するコンサルティング会社です。世界各国の大手企業を顧客とし、世界各国の政治や経済、安全保障について分析。そのデータを提供しています。もともとはソ連や東欧などのユーラシア大陸に関して専門に分析していたので、この名前がありますが、いまは世界全体を見渡しての分析をしています。

 この会社が、どれだけ世界情勢を分析できているかを知ってもらうために、毎年「10大リスク」を公表しています。去年のトップには、「注釈付き第46代アメリカ大統領」を挙げました。これは、バイデン大統領が第46代大統領に選ばれたとはいえ、アメリカ国内にはバイデン大統領の当選を認めない人がいて、アメリカ国内の先行きが不安定であることを指摘していました。この発表の2日後、トランプ前大統領の支持者たちが、選挙結果を覆そうと連邦議会議事堂に突入しました。まさに予想的中でした。

 では、今年は、なぜ「中国のゼロコロナ政策の失敗」なのでしょうか。

 この発表を機に中国を見ますと、大都市の西安でコロナの感染を封じ込めるためにロックダウンを実施したものの、買い物に出られなくなり食料不足に陥っている市民のニュースが伝えられています。これは、まさに「ゼロコロナ政策の失敗」です。

 世界の多くの国が、新型コロナウイルスの封じ込めに失敗し、ワクチン接種を通じて「ウィズコロナ」、つまりコロナと共存する道を選んでいるのとは対照的に、中国は徹底的に封じ込めようとしています。

 その理由は、中国製のワクチンが信頼性に欠け、「ウィズコロナ」の道を選ぶのはリスクが高すぎるからです。

 中国は世界に先駆ける形で独自にワクチンを開発。大量生産して世界各国に提供してきました。いわゆる「ワクチン外交」です。ところが、中国製ワクチンを打った中南米の国々では感染が拡大しました。ファイザーやモデルナのようなmRNAを使ったワクチンに比べて、効果が極端に低かったのです。現地では「水ワクチン」つまり「まるで水のようなもので効果がない」と不評です。中国政府も、これを知っているからこそ、ゼロコロナを維持しようとしているのでしょう。

 しかし、感染力の強いオミクロン株が出現すると、中国各地で感染が広がっています。

世界のサプライチェーンに影響

 中国は感染者が見つかるたびに、その都市全体をロックダウンして感染が収まるのを待っています。これではまるでモグラ叩き。各地でロックダウンが行われ、人やモノの移動に支障が出ています。

 たとえばアメリカなどでは「ウィズコロナ」の道を選択し、経済活動が活発になるにつれ、物流を支えるコンテナが不足していますが、コンテナの生産のほとんどは中国です。人やモノの移動が制限されている結果、コンテナの生産が間に合いません。結果、世界の物流に影響が出ているというわけです。

 それ以外にも、中国は「世界の工場」として、各国から発注を受けた製品を製造していますが、それが発注元に届いていません。いわゆる「サプライチェーン」が機能していないのです。これでは世界経済に悪影響が出ます。誇り高い中国としては、ファイザーやモデルナのワクチンを導入することはないでしょう。でも、それでは中国が世界のリスク要因となる状況は続くのです。

 2番目のリスクは「巨大ハイテク企業による支配」です。これが、なぜリスクになるのか。グーグルやアマゾン、フェイスブック(現・メタ)、アップルのGAFAの世界への影響力が一段と強まっていることにEU(欧州連合)などは危機感を強め、なんとか規制しようとしていますが、IT企業はこれに反発。規制をめぐって世界各地で対立が起きるだろうと予測しています。説明を読めば、なるほど、これも世界のリスクなのだと納得できるでしょう。

 3番目は「アメリカの中間選挙」です。今年11月にはアメリカ議会の下院全員と上院の3分の1の改選が行われます。現在は上下院とも民主党優位ですが、これが逆転。どちらも共和党が優位に立ち、バイデン政権の施政を妨害するようになるだろうと予測しています。こうなればアメリカ政治は混乱と停滞に見舞われます。これは明らかに世界にとってのリスクでしょう。

 4番目は「中国の内政」です。習近平国家主席は「共同富裕」をスローガンに国内のIT企業への干渉を強めています。これが中国経済へのマイナス要因になるだろうというわけです。

 5番目はロシア。ウクライナ国境に多数の兵士を配備して圧力をかけるロシアの姿勢は、いつ戦争に発展してもおかしくないのですから、これもリスクです。ロシアがウクライナに侵攻したら、アメリカやEUはロシアに経済制裁を行うでしょうが、日本はどうするのでしょうか。北方領土交渉に悪影響があると考えると、制裁はためらうでしょう。ウクライナ情勢は他人事ではないのです。

 この他にはイランの核開発や、世界の力の空白地帯、環境問題や人権問題などへの対応を迫られる企業、トルコ情勢といった事柄が挙げられています。今年も世界はリスクだらけなのです。

イラストレーション 3rdeye

source : 週刊文春 2022年1月20日号

文春リークス
閉じる