安倍さんとは生前、官邸での会議や時には食事の席でご一緒させて頂いた。中国、アメリカとの国際関係、世界のエネルギー政策、二世議員の在り方。多岐にわたるテーマを語りながら、「世の中ではこういうふうに言われてるけど、実はこうなんだよな。ハッハッハッ」と明かしてくれたり……安倍さんと話をするのは、本当に楽しかった。
ただ、もともとはそれほど親しい間柄だったわけではない。最初の記憶としてぼんやり残っているのは、第1次政権の後、観光地でバッタリ会った際に「あれ、こんなところで何してるんですか?」と挨拶したことかもしれない。安倍さんもまだ「もう一度総理を目指す」という感じではなかったように思う。
でも2012年末、再び総理の椅子に座ることになる。そして僕も産業競争力会議のメンバーに呼ばれるなど、安倍さんと接する機会が増えていった。当時感じていたのは、安倍さんもまた、日本を海外に向けて開けた国にしたいという強い想いを抱いていたということだ。
実際、外国人観光客を増やしていくことの重要性を掲げ、外国人労働者の受け入れ拡大なども前向きに進めてきた。英語教育も「これからの日本にとっていかに大事か」と訴えると、真剣に耳を傾けてくれた。
特に、現職首相としてシリコンバレーを訪れてくれたことが思い出深い。あの時はイーロン・マスクにも会われたし、テスラの電気自動車にも乗られた。ベンチャー起業家と一緒のラウンドテーブルにもご参加頂いた。僕の目には安倍さんが生き生きと、それこそ未来の世界を感じているように映った。彼らの率直な声を、現地で聞いた初めての首相だったのではないだろうか。規制を撤廃して民間の力を活用することが、日本を復活させる改革の要なんだと実感してもらえたと思っている。
官邸で直接抗議した
一方で産業競争力会議では、医薬品のネット販売を巡って安倍さんと激しく衝突したこともあった。最高裁が2013年、ネット販売を規制する厚労省に対し、違憲判決を下したにもかかわらず、政府は計28品目について要指導医薬品という規制のための新たな医薬品カテゴリを作ってネット販売を禁じようとしたのだ。僕は「何のための規制改革なのか」と官邸まで行って安倍さんに直接、抗議をした。一対一で長時間話し合ったが、膨大な国の予算を差配する安倍さんからすれば、小さい話だったのかもしれない。「99%を解禁したのだから1%くらいいいじゃないか」という雰囲気だった。「三木谷君、ほんと頑固だよね(笑)」と思われていたかもしれない。
結局、僕が押し切られるというか、政府にあしらわれるような形でその規制が認められてしまった。それは、最高裁ですら認めた規制改革が、官僚や既得権益を持つ人々の思惑によって、いかに骨抜きにされてしまうかを実感した瞬間だった。
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source : 週刊文春 2022年8月11日号