Call Me Crazy(私をクレイジーと呼んで)

町山智浩の言霊USA 第638回

町山 智浩
ニュース 国際

 8月5日、ロサンジェルス市マービスタ地区の住宅地の狭い道路を青いミニクーパーが猛スピードで疾走し、民家に突っ込んだ。車は炎上し、1LDKの小さな家は半壊した。消防士は燃える車から運転していた女優アン・ヘッシュ(53歳)を救出した。

 炎に包まれた彼女は酸欠で脳死した。生前の遺志通り、移植に提供する臓器を取り出してから、生命維持装置を外された。

 1969年生まれのヘッシュは20代終わりの1997年から98年にかけて、ハリウッドで活躍した。『フェイク』(97年)では、マフィアに潜入捜査するジョニー・デップの妻を情感を込めて、ロサンジェルスで火山が爆発するパニック映画『ボルケーノ』(同)ではヒロインの火山学者をバカバカしく、ラブコメ『6デイズ/7ナイツ』(98年)ではハリソン・フォードと無人島に不時着する雑誌編集者を楽しく演じて、彼女は人気女優だった。

 同時に、アン・ヘッシュは革命的な女優でもあった。1997年、ヘッシュはコメディアンのエレン・デジェネレスの恋人として2人でハリウッド映画のプレミアに現れた。それは、本当に勇気ある行動だった。その年、エレン・デジェネレスはテレビでレギュラー番組を持つスターとして初めて番組中で「うん、私はゲイだよ」とカミングアウトした。ちなみにエルトン・ジョンもバリー・マニロウもジョディ・フォスターもまだカミングアウトしていなかった時代だ。

 しかし、その後、ヘッシュはハリウッドから消えた。いったい何があったのか。

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source : 週刊文春 2022年9月8日号

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