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日本では「誰も見たことのない新しいものを作る」ことが高く評価され、発明や商品のスペックが過剰に重視されがちです。そのため、企業の側にもまったく新しいサービスや商品を作らなければいけないという強迫観念があるように感じています。
もちろん、世の中に存在しなかった画期的なアイデアを生み出すことも大事ですが、より重要なのは、商品やサービスが消費者や企業の活動や行動に浸透するか、ということです。そのことを豊富な事例をもとに紹介しているのが、『イノベーションの競争戦略』(東洋経済新報社 1800円+税)です。編著者である内田和成氏たちは「イノベーション」をこう定義しています。商品やサービスの開発による価値創造にとどまらず、顧客の生活を不可逆的に変えてしまう“行動変容”まで達成すること。
本書を読みながら、創業時に豆腐をメインとしたファーストフードの事業を構想していたことを思い出しました。食生活が欧米化している中で、ヘルシーで栄養バランスに優れた豆腐が主食になれば、日本中の人々が健康になれるのではないかと考えたのです。サンドイッチチェーンの「サブウェイ」のように、豆腐にいろいろなトッピングをして食べてもらうイメージを膨らませていました。セミナーに出かけたり、普段は読まない難しい本を読んだりして研究し、挑戦するギリギリのところまで進んでいました。
でも結局はやらなかった。なぜか。単純に流行らないだろうと思ったからです。1店舗だけで堅実にやっていくことはできたかもしれません。ただ、それでは日本人の食文化を変革して、健康な人をたくさん増やすという目的は果たせない。社会に提供する価値も限定され、価値創造にはなりえても、“行動変容”は起こらないと思ったのです。
行動変容を起こす難しさについて本書は「無意識に行われている行動を変容することは、人にとって大きなストレスになるから」と指摘します。今では当たり前となっている紙おむつも、手抜きだという心理や、紙おむつをすると情緒面や知能面の発達が遅れるという思い込みがあり、普及までに長い時間がかかったそうです。人は現状維持を好み、今までやってきたことを自己正当化してしまう傾向があるということでしょう。
そうした壁を乗り越えて行動変容を起こすには、徹底して顧客目線に立つしかありません。本書で例に挙げられているメルカリは、フリマアプリでは後発だったにもかかわらず、置き配やコンビニでの受配送など利便性が高い配送手段を備えて顧客同士のやり取りを簡便化。さらに商品群を絞らず、誰もが気軽に売る喜びを感じられるような環境を作った結果、「誰もが日常的に中古品を買い、中古品を売る」という行動変容を世の中にもたらしました。
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source : 週刊文春 2023年7月21日号