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未来はいくらでも努力次第で変えられるし、自分で決めたいと考えています。そのためにはなりたい自分の姿をありありと想像し、ゴールに至る道筋や動線を描いていかなければなりません。それは企業においても同じ。組織が自分たちの未来をコントロールできるような原則と実践方法について述べているのが『フューチャー・バック思考』(マーク・ジョンソン、ジョシュ・サスケウィッツ 福井久美子訳 実務教育出版 2000円+税)です。著者の1人は『イノベーションのジレンマ』で知られるクレイトン・クリステンセンと戦略系コンサルティング会社を設立した人物で、企業が変化を乗り切り、成長戦略を進めていくための方法論を語っています。
フューチャー・バック思考とは、「未来」を起点に「現在」を展望するもので「現時点で思い描いている想定を脇に置いて、目的地について慎重に考え、そこに到達するための計画を段階的に策定して実行する」というアプローチをとります。これに対し、「現在」を起点に「未来」を展望するのが“プレゼント・フォワード思考”。ビジネスにはどちらの思考も必要で、現状と連続しない変化が続く現代では「未来から導く」方法論が重要だという主張には深くうなずきました。
未来から導くアプローチと言えば、会社を作ったばかりのころ、まるで成功者のように振舞ってみたことがあるのを思い出しました。デスクをいわゆる「社長の机」に新調したり、当時は背伸びしないといけないようなレストランにでかけて「ここは僕の庭だ」と想像したり。実際に贅沢な空間を体験して、自分の頭をだまそうとしたのです。人間には行動と思考が一致していなければ、そのギャップが解消するように動く習性があります。良い机を使えば、それに相応しい事をしようとするもの。行動を変えれば思考も変わるので“形から入る”というアプローチは有効だと考えています。元気がないときは下を向くのではなく、背筋を伸ばして歩いてみたり、カラオケで大声を出したりするとよいでしょう。
また、現状の延長でビジネスを続けることは、一見安全策のようで実はそうではないという本書の指摘にもハッとさせられました。著者は既存のビジネスを改善し続ければ、そのビジネスの寿命をいつまでも延ばすことができるという考え方は“プレゼント・フォワード思考の誤信”であるとしています。にもかかわらず、多くの人が、制約条件を常に意識してしまっている。ライザップの事業で言えば「フィットネスはこうでなくてはいけない」といった固定観念が制約条件になりえます。そうではなく、ゼロベースで、もしすべてが可能ならというアプローチでビジョンを描く必要があります。その際「暖を取りたいから火を起こす」というように、本能的な欲求に基づくゴールから始めることが重要でしょう。
本書にも〈変革を阻む障害を取り除く一番確実な方法は、実際に自分の未来を思い描いてみることだ〉とあります。私はよくこの例えを使いますが、東京駅に行こうと思わなければ、辿り着くことはない。ゴールが定まっているからこそ、逆算してそこに至る手段を決められるのです。
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source : 週刊文春 2022年9月15日号