研究員の任期が切れ、定職を失った34歳の僕は、女子高の非常勤講師などでどうにか生活していた。その前に働いていた“アウトレイジ”な男子高は、非常勤講師はみな“学者の卵”で、専任の先生たちにはそれを応援する雰囲気があった。しかし、新しい女子高では専任教員と非常勤講師との交流はあまり無く、講師で男性は僕だけ。講師控室での会話もほぼ女子会トークで、男の僕にはなんとなく居心地が悪かった。
男子高で8年も働いていたために、女子生徒のまえで授業をするというのにも慣れなかった。事前に「男性教員は特定の生徒ばかりに視線を送っていると、すぐ変な噂が立つから、満遍なく教室全体に視線を送るように心掛けたほうがいい」とアドバイスされたので、心してその通りにしたら、最初のアンケートで「いつも挙動不審に視線が泳いでいる」と書かれてしまうし。ちょっと私語の注意をするにしても、男子高の癖が抜けず、思いのほかドスの利いた声になってしまい、気づいたら生徒全員が怯えた眼でこちらを見ていた。
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source : 週刊文春 2023年4月13日号