学生時代、ある途上国に旅をしたときの話である。せっかくなので旅先から国際便で日本に絵葉書を送ろうと思い立ち、最寄りの郵便局で切手を買って、それを貼りつけてポストに投函しようとした。すると、僕よりも旅慣れた知人が恐い顔で、「それはやめたほうがいい」と忠告してくれた。

 知人曰く、この国では、郵便物をそのままポストに投函すると、郵便局員が貼ってある切手を剥がして着服し、肝心の郵便物は捨てられてしまうのだという。だから、切手代をムダにしたくなければ、面倒でも郵便局の窓口に郵便物を持参し、見ている前で消印を押してもらうべきだという。消印が押されてしまった切手はもう換金できないので、そうなったら、郵便物は目的地に届けるしかないのだそうだ。

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source : 週刊文春 2023年6月1日号