今年の大河ドラマの主人公徳川家康は旧姓を松平と言い、もとは三河国(愛知県東部)の一部を領有する弱小勢力に過ぎなかった。のちに江戸幕府の初代将軍として家康の事績は過度に神話化されることになるが、そもそも彼の先祖が室町時代にどのような存在であったのか。その実像は、大きな謎に包まれている。
松平家の草創期を描いた大久保彦左衛門の『三河物語(みかわものがたり)』などによれば、歴代松平氏は(1)親氏―(2)泰親―(3)信光―(4)親忠―(5)長親―(6)信忠―(7)清康―(8)広忠―(9)家康と、家康以前に八代の当主がいたとされる。しかし、だいたい初代の親氏からして、清和源氏の末裔でありながら、わけあって徳阿弥という流れ坊主となり、三河松平郷の土豪に婿入りして土着した、というお伽話めいた貴種流離譚が伝えられており、なんとも胡散臭い。その他、家康の曽祖父六代信忠ぐらいまでは、それぞれ生没年も不確定で、研究者の長年の努力にもかかわらず、この一族の来歴はなお茫漠としている。
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source : 週刊文春 2023年7月27日号