俺が「木原事件」の捜査に加わったのは、2018年6月頃のことだった。
当時、俺は都内で起きた評論家の西部邁さんの自殺幇助事件を担当していて、その捜査が一段落ついたところだった。
この事件では自殺を手助けしたテレビ局の局員と秘書が逮捕され、俺が取調官として取り調べを行った。本来、捜査一課殺人犯係は自殺幇助の捜査には手を出さないが、この事件では社会的影響力の大きさから俺たちが投入されたという経緯があった。
その後、俺は特命捜査第一係(トクイチ)に行ってくれと言われ、しばらく行方不明事件の捜査に当たることになった。当時の小林敦捜査一課長が当時、殺人の一係、二係、四係からエース級の捜査員を引っ張ったからだ。
俺はこの人事を受けたとき、「あ、助かったな」と思った。
殺人事件での突然の呼び出しはないから、少しほっとしたのだ。しばらくはストレスの少ない職場で気持ちを休めることができる、という気持ちだったんだ。
捜査一課殺人犯捜査第一係のK係長から連絡を受けたのは、そんなほっとした気持ちでいたときのことだった。
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source : 週刊文春 電子版オリジナル