『ブギウギ』はパーッと明るい、朝から元気なドラマなんだと思っていたら、そればかりじゃなかった。
鈴子の出生の秘密。あんな明るい子に、何かがある。それを乗り越えてさらに明るく輝いて……って実にありがちのストーリーだ(笠置シヅ子の実話に基づいた話ではあるが)。ありがちでもツボを押さえればカタルシスは得られるし、と思いながら見ていたら何か別の方向に心を揺さぶられた。
鈴子が、両親の故郷・香川の知り合い?の法事になぜか出かけることになる。わりと立派なその家の死んだ息子が実は鈴子の実の父だったのだ! 鈴子は実の父の法事に知らずに参列したのだ!……というのはいいとして、その法事場面が、まさに「田舎のイヤなところを煮詰めたような」有様。鈴子にとって実の祖父である石倉三郎演じるジイさんは、酔っぱらってくどい上に失礼。悪人じゃないだけに余計やっかい、という。USKにいるんならこの場で踊れ~とか言いだしてまわりの客もそうだそうだと下品に騒ぎ出す。確か、笠置シヅ子の出身地である東かがわ市が『ブギウギ』がらみのXを頻繁にポストしていたが、これ見たら「東かがわってのはこんなイヤなとこか」と思うんじゃないかと心配になった。それぐらいその田舎法事場面がムダに「リアル」。
で、その法事の騒ぎの中で「どうしても黙ってられない親戚」に鈴子は実の母が生きて隣村にいると教えられ、1人でふらふらとそこまで行くと、農作業に疲れ果てたような、見るからに幸薄そうな(でも美人の)母と会う。その再会も、お涙頂戴でもなく感動の再会でもなく説明的でもなく、すごく淡々とした描写と演技なので、かえって「ホンモノ」っぽい。母と鈴子が手を合わせる、その鈴子の手の白さと、母の灼けて荒れた手。
そしてこの香川における趣里ですよ。それまではあまりデリカシーを感じない鈴子の役作りで、もしかすると主役がイマイチなのかも……と思っていたが、この法事の席から母との再会にかけての趣里の演技が、まるで別人みたいに繊細でびっくりしてしまった。大阪にいる鈴子とまるで表情も佇まいもちがう。「動かないことによってこちらの心を動かす」。大阪ではうるさいぐらい動きまくってたのに。
もう見ているだけで胸がつまってくるような鈴子で、この人(趣里も、鈴子も)こんな面もあったのかとほんとにびっくりした。
で、この別人みたいな鈴子は、あの元気な鈴子と融合して、日本中を魅了する「福来スズ子」にこれから変貌していく……ってことなんだろうか。なんだかそれがうまく想像つかなくてちょっと混乱しているが、『ブギウギ』の鈴子には注目しないわけにいかない。
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source : 週刊文春 2023年11月16日号