毒島と書いて「ブスジマ」と読む珍しい名字がある。そんなことが、ある教養バラエティー番組で紹介された。コーナーの冒頭、ベテラン男性司会者が女性ゲストに対して、ふざけて「ブスジマなんて名字になったらどう思います?」と尋ねていたのだが、数日後、新聞投書欄に、このやりとりに対する女性視聴者からの抗議の投書が掲載された。

 たまたま僕も同じ番組を見ていたので、てっきり「全国の毒島さんに失礼ではないか」という抗議なのかと思ったが、その内容は違っていた。曰く、「なぜそんな質問を女性出演者にだけ投げかけるのでしょうか。……男女の区別なく、全員に投げかけてほしかったです」(『朝日新聞』2018年10月16日朝刊)。

 僕は、投稿者の意図がすぐには呑み込めず、呆気にとられた。やがて、少し考えて、「そういうことか!」と了解した。僕らの世代などは「ブス」というのは女性に対する蔑称であるというのが当たり前だったが、近年、若い人を中心に「ブス」という言葉を器量の悪い男性に対しても使うようになっている。たぶん男性司会者は僕と同じで「ブス」というのは女性に使う言葉だと思ったからこそ、悪気なく女性出演者だけに話題を振ったのだろうが、この投稿者は「ブス」を男女両性に対して使う言葉だと考えていたのではないだろうか。そのために、「なぜ女性にだけ話題を振ったのだ」と怒りを感じたのだろう。

 彼女の怒りが正当か否かは、しばし措こう。しかし、考えてみれば、僕らの社会では、長い間、「ブス」という女性の容貌を貶めるポピュラーな悪口がある一方で、男性の容貌を貶める悪口はほぼ存在しないか、存在したとしても決してポピュラーなものではなかった。これは極めて非対称な実態である。実際、室町時代には、容貌の醜い女性についての逸話は多くあっても、容貌の醜い男性の逸話はあまり見当たらない。

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source : 週刊文春 2023年11月23日号