京都大学のすぐ横、観光客もあまり立ち寄らない緑豊かな吉田山(神楽岡)の山中に、吉田神社はある。大きな赤い鳥居が目印で、京大OBの作家、森見登美彦さんの小説にもたびたび登場し、「受験生がお参りすると京大に落ちる」、「京大生がお参りすると単位を落とす」などのジンクスがあるとか、無いとか。でも、室町時代、ここが「お参りすれば、日本中のすべての神社をお参りしたのと同じご利益が得られる」という超パワースポットであったことは、あまり知られていない。

 吉田神社は平安時代に創建された由緒ある神社で、二十二社の一つとされるが、元来はさほど大きな力をもってはいなかった。それが、室町後期、ここの神主家である吉田家から吉田兼倶(かねとも)という一人の異端の宗教家が出たことで、俄然、その存在感を高めることになる。

 おりしも応仁の大乱により、都の寺社の多くは荒廃の極みにあり、神仏の権威も地に落ちていた。しかも、「神仏習合」と言われるとおり、この当時の神祇信仰はいまだ仏教と融合しており、仏教信仰の一部として扱われていた。そこに兼倶は吉田神道(唯一神道)という固有の神道を創始して、神祇信仰を独自の宗教として自立させようとしたのである。

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source : 週刊文春 2023年11月30日号