「もうあの地獄は見たくないよ」
無類のテレビ東京フリークである伊集院光と元局員の佐久間宣行がテレ東の番組を語る『伊集院光&佐久間宣行の勝手に「テレ東批評」』(テレビ東京)にゲスト出演した中村ゆうじがしみじみと語った。「日本一きつい番組だった」という『TVチャンピオン』を振り返ったときだ。全797回放送中、約半分の358回のロケMCを担当し、15年間の生活を捧げていた。この番組は長時間ロケが当たり前。時には数日かかる。それでも中村はこの番組のスケジュールを最優先に考えていたという。
そのきっかけは、もっとも過酷だったという「手先が器用選手権」。当時番組が始まったばかりでディレクター、AD、カメラが各1人ずつという心もとない布陣。選手は5人いたが、競技をひとりずつ順番におこなった。一斉にやらなかったのは場所が狭いから。そんな最低限の予算しかない制作状況にカメラマンが「こんな番組1クール続けばいい」と思わず吐き捨てた。その言葉に中村は燃えた。絶対面白くしてやろうと。
果たして『TVチャンピオン』はテレビ東京を代表する番組になったのだ。それが『TVチャンピオン3』として地上波では15年ぶりに復活を果たした。おこなわれたのは「和菓子職人選手権」、「ダンボールアート王選手権」、そして「手先が器用選手権」。そのレポーターを務めるのはやはり中村ゆうじだ。参加者は同選手権で3連覇を飾ったレジェンド・原口高陽ら3人。制限時間12時間で5円玉を等間隔に190枚、さらに2段ピラミッドを10列並べる5円玉ドミノ。それだけでも気が遠くなるがそれで終わらないのがこの番組。並べた5円玉の穴に糸を通すというのだ。あまりにも常軌を逸している。
「それも怖いよ!」
序盤、カメラマンがカメラを引きずったのを即座に注意する中村。振動で倒しかねないと。挑戦者と共に長年戦ってきたことが窺える。息遣いすら気をつけなければならない戦いをしているのだ。画面のほとんどが5円玉のアップ。画(え)変わりはしないが、目を離すことはできない。今回、終始リードしていたのは、番組を見て育った世代で、憧れの原口と戦えると参加を決めた和知昭洋。早々にドミノを完成させるが糸通しには苦戦する。遂にすべての穴に糸を通すも、それまで助けられていたストッパーが今度は敵になる。ストッパーを外す時に倒してしまうのだ。これぞ、『TVチャンピオン』だ。
時を超え復活しても作り手、演者、出場者の執念は衰えない。やっていることは何も意味のないことばかり。けれどだからこそ、極上の快感と地獄のような残酷さを同時に味わうことができるのだ。
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source : 週刊文春 2024年1月4日・11日号