238人の命を奪い、5万戸に迫る家屋を倒壊に追い込んだあの大地震から1カ月が経つ。極寒、豪雪、断水、停電……数多の苦難の中にあっても、能登に暮らし、能登と共に生きる決意を固めた、気高い不屈の人の姿。
スタジオ2階の階段で、鉄骨の柱に必死でしがみつくのが精いっぱいだった。窓の向こう、2軒隣の寺院が崩落し、白い土煙を噴き上げる。やがて隣家も崩れ落ち、無人の自動車が波打つ地面を跳ねながら徐々に接近してくるのが見えた。
能登半島の先端に位置する珠洲(すず)市唯一の写真館「サカスタジオ」を経営する坂健生(けんせい)さん(66)は、激震に耐えながら覚悟した。
「次はここか……」
今年1月1日、坂さんは地元・県立飯田高校の卒業アルバムを制作中に被災。揺れが収まった瞬間、機材が散乱するスタジオから、地元の中学、高校の生徒たちの撮影データが入ったパソコンと愛用のカメラを抱えて、外に飛び出した。
ヒビ割れた路上は、大津波警報に促され、高台を目指す人で溢れ返っていた。とっさにその様子を撮影したのは、写真家としての本能だった。坂さんが言う。
「地震の直後から、被災者目線で、珠洲市の様子を撮影して記録に残していこうと思ったんです。今どこそこに移動式ランドリー車が来ているとか、地元のプチ情報も交えながら、Xに投稿を続けています」
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source : 週刊文春 2024年2月8日号