2024年1月1日――男は覚悟を決めて指示を出した。後に“輪島40”と称えられるその決断は、いまに繋がっている。生まれ育った故郷と愛する人を奪ったあの震災から2カ月。春まだ浅い能登に咲いた数輪の不屈の秘話。
能登半島唯一の自衛隊施設「航空自衛隊輪島分屯基地」。副隊長の大出武志三佐(49)はその時、隣接する官舎にいた。建物が大きく揺れたのは、16時6分。地震が発生すると、ただちに登庁し、災害派遣に備えるのが隊員の鉄則だ。
グレーを基調とした空自の迷彩服に着替え、基地に向かおうとした矢先の同10分。今度は、官舎の倒壊を覚悟するほどの激しい揺れに襲われる。最大震度7を記録した大地震だった。
小誌の取材に応じた大出三佐が振り返る。
「揺れが収まるまでは動くこともできず、登庁できたのは16時14、5分。すぐに基地内の人員と状況の掌握に努めました」
警戒管制レーダー「J/FPS-3」を有する同基地は、365日24時間態勢で、日本に接近する航空機や弾道ミサイルを監視するのが主たる任務だ。隊員の多くは基地内に暮らすが、交互で年末年始の休暇を取得していたその日、登庁できたのは、わずか40人。
後に防衛省内で“輪島40(フォーテ)”と称えられた、輪島分屯基地隊員たちの長い一日の始まりだった――。
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source : 週刊文春 2024年3月7日号