伊藤沙莉が文句なしだ。昭和初期の男女不平等な時代に、女性法律家の草分けとなった三淵嘉子さんがモデルの朝ドラ「虎に翼」で猪爪寅子(いのつめともこ)を演じる彼女の表情が断然いいんだよ。

 納得できないと「はて?」と首をひねり、とことん正論をぶつけていく姿がチャーミングなんです。

 一般的にいって、正論をふりかざす人は面倒くさい人が多い。しかし伊藤沙莉が演じる寅子は、戦前の不条理な現実には飽くまで抵抗し、女の前に立ちはだかる大きな壁に体当たりしていくが、妙な悲壮感はなく、その表情には明るい笑みさえ浮かんでいる。

 でも、ここまでくるのが大変だった。寅子の両親は娘の幸せを願っているが、それには良き結婚しかないと思っているから、寅子は気の進まない見合いを三度もさせられる。

伊藤沙莉 ©文藝春秋

 女学校の親友、花江(森田望智)は「女学生のうちに、結婚するのが夢」で、寅子の母、はる(石田ゆり子)と同様、女の幸福は結婚と信じて疑わない。

 女には選択肢が少ない時代だ。職業婦人を目ざす寅子には高いハードルが待ち構えている。寅子の家に居候して弁護士を目ざす佐田優三(仲野太賀)を、法律は結婚しても女を「無能力者」扱いで、女の味方になってないのは何故かと寅子が問い詰める。そこへ花江がやってきて、三人でコント芝居のようなドタバタを演じたシーンの動きとセリフが決まってて大爆笑、四、五回、見返したよ。

 優三が夜学に通う明律大(明治大学がモデル)に、女子部があって、そこを卒業すれば男子と一緒に法学部に入れると知って、寅子は結婚でなく、弁護士を目ざして女子部に入る。

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source : 週刊文春 2024年5月2日・9日号