(かんだきょうこ 講談師。1977(昭和52)年、岐阜県美濃市生まれ。99年日本大学芸術学部在学中に、二代目神田山陽に入門。2014年、真打昇進。「金子みすゞ伝〜明るいほうへ〜」等、新作講談にも意欲的に取り組む。文化庁芸術祭賞優秀賞ほか受賞。)

 

 2020年2月、夫と息子と一緒に山口県山口市に移り住みました。月の半分は東京の寄席出演などの仕事、半分は山口で子どもと一緒にゆっくり過ごすというバランスで生活しています。山口市は「ニューヨーク・タイムズ」の『2024年に行くべき52箇所』の一つに選ばれたほど魅力のある所。歴史や文化が残っていて風情もあるし、お店や公共施設も揃っていて、とても便利で住みやすい。

 もし私が古い価値観の芸人だったら、地方移住は都落ちという感覚があって選択できなかったかもしれません。でも、どこにいても講談はできますし。むしろ地方に越してからのほうが余白が持てて、じっくり自分の講談に取り組めるようになったと思います。

 釈台を張り(おうぎ)で叩きながら、さまざまな物語を届ける伝統話芸。講談界に女性が登場したのは、近代のことだが、現在は東京で活動する女性講談師は40人以上いる。その中でも、2拠点生活をする神田京子さんの在り方は独特だ。
 京子さんは、1977(昭和52)年生まれ。

 私が生まれた岐阜県美濃市は、長良川が近くにある自然豊かな所です。父は溶接機械や材料の販売をする仕事をしています。家と店、倉庫が同じ敷地内にあり、住まいは2階建ての一軒家。1階に事務所とリビング、奥に仏間、2階に祖父母の部屋も父の書斎もあって、全部で7部屋あったかな。ひとつ上の姉、ふたつ下の弟と、きょうだい3人一緒の部屋で暮らしてました。

大学時代に果たした運命的な出会いで二代目神田山陽に弟子入り。講談師の道へ

 私は小さい頃から目立ちたがり屋のお祭り好き。地元で行われていた「美濃まつり」が楽しみでした。昼は美濃和紙で作られた花いっぱいの「花みこし」がにぎやかに練り歩く。夜は「流しにわか」という風刺狂言が行われて、また違う風情があるんです。私は子どもみこしに参加していました。寄席って雰囲気がお祭りに似てるんです。のちに私が寄席に出る仕事についたのは、美濃まつりが原風景にあったからかもしれません。

 地元の公立小学校を卒業後、男女共学の中高一貫で、全寮制の学校に進学。

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source : 週刊文春 2024年5月23日号