どうも春風亭一之輔です。これから隔週で日々のヨシナシゴトを綴っていきます。いつまで続くかわかりませんが、噺はんぶんにお付き合いください。
4月2日
オフ。始まりがいきなりオフなのもどうかと思うが、オフなのだからしょうがない。歌舞伎座へ。前から3列目の良席。仁左衛門丈と玉三郎丈のお二人と確実に目が合った……と思う。寄席のお客でもそんなことを言う人がいるが、私は正直者なので「いや、全然合ってないすよ」なんてつれなく応えてしまう。でもね、今日の私は仁左衛門丈と玉三郎丈と確実に目が合ったのだ。ハートを射抜かれた。死んでもいい……そう思った。私がそう言ってもたぶんお二人は「合ってねえよ」なんて言わず「そうでしたね」と優しく微笑んでくれるだろう。自分が嫌になるな。帰宅してEテレで志ん朝師匠の『火焔太鼓』観る。師匠が亡くなったのが2001年で私が入門した年。それまで遠慮してたのか、次の年あたりから『火焔太鼓』をやる噺家が増えた。でもやっぱり古今亭のネタだ。私は生涯やらないな。今、落語界では門外不出みたいなネタが減ったから『火焔太鼓』や『お直し』なんかはそのままでいて欲しい。オフなのについつい芸について考えてしまった。えらいな、私。
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source : 週刊文春 2024年5月30日号