最後に将棋を指したのは小学校2年生だったと思う。その後はもっぱら野球に熱中してしまったので、今、将棋で覚えていることといえば駒の動かし方くらいしかない。

 そんなド素人の筆者でも藤井聡太八冠の活躍は気になるところだ。ニュースで「速報です。藤井八冠が勝利を収め……」とアナウンサーが言えば、つい「藤井、勝ったのかあ」などと呟いてしまう。勝利が大逆転だったりすると興味はさらに増す。ユーチューブで対局を視聴し、局面が変わった様子をチェックする。

 むろん藤井八冠の繰り出した手がなぜ局面を変えたのか理由はわからない。それでも観てしまうのは、ある一手が放たれた瞬間に解説者が思わず「おおっ」と言ったり、数字で示される形勢の有利不利が一方から他方へ一気に傾くのが面白かったりするからだ。

 さて、そんな「観る将」とも言えた義理ではない「エセ観る将」の筆者にとって、新聞の将棋記事というのは非常に不思議な代物である。

 例えば藤井八冠が名人戦で初防衛を果たしたことを伝える5月28日付毎日朝刊。「今期七番勝負では、横歩取り、ひねり飛車、雁木と多彩な戦法を取り……」

「横歩取り」や「ひねり飛車」などの意味は不明。しかし戦法の一種であることは分かるから百歩譲るとして、名人戦第2局を伝える次の文章はどうか。「先手は2枚の桂を急所に配置し、遊んでいた角も踊り出した。☗1五角は次の☗2四香を見ている。この瞬間、先手陣はすべての駒に命が吹き込まれた格好だ」(5月29日付朝日朝刊)。

 なんのこっちゃ。「あなたの母親が読んでも分かるような文章を書きなさい」。新聞記者になると、そう教育されると聞いたことがあるが、将棋記者は例外なのか。

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source : 週刊文春 2024年6月13日号