コロナ禍の出勤制限のあおりをうけ、収入の下がった大久保優樹さん(仮名・20代)は、SNSを通じ軽い気持ちで「闇バイト」に応募する。面接と称し呼び出されたのは繁華街のカラオケボックス。面接相手は、大久保さんのマイナンバーカードを確認し、スマホを預かると告げ――。

「『君が飛んだりしないよう、このスマホは預かっておく。明日、仕事に入る前にどこで預かってあるか連絡するから取りに行って』と言われました。すごく手の込んだことをやるんだなと思いました。自分は副業を探しているんだと伝えても、相手は『明日だけでも来てもらって、嫌だったら辞めていい』の一点張りでした」

「闇バイト」に合格した瞬間だった。マイナンバーカードとスマホを預けただけで、日払い高収入をうたう仕事を手にしたことになる。だが、どんな仕事をするのか具体的に示されることはなかったという。大久保さんもおずおずと質問したが、答えは返ってこずに、代わりにスマホを1台渡された。

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「『今後そこに具体的な指示を送る』と言っていました。何をやらされるのかわからなかったので、『やっぱり辞めたい』と抵抗したんですが、『もう個人情報や家族のことは全部知っているから、家族にチクるぞ』と脅されました。この時点では何もやましいことはないので気にせず帰ればよかったんですが、当時はもしここで断ると家族に迷惑がかかってしまうのではと思い込んでしまい、抗いきれませんでした」

 仕事用のスマホは、通信専用のSIMカードが入った古いiPhone。ロシア製の通信アプリ「テレグラム」がインストールされていた。テレグラムはLINEと同様、チャットと通話の機能を備えるが、時間が経つとメッセージが自動的に削除されるのが特徴だ。近年、犯罪の現場で使用されるケースが多い。

「仕事内容は明かされませんでしたが、犯罪に近いことをやらされるんだろうなとは見当がつきました。あわせて、こまごまとした指示もありました。仕事に必要だからワイシャツとリュックとスニーカーを用意しておけとか、仕事のある日は前日からホテルに宿泊しろとか」

「犯行日は日がな報告、報告、報告」

 初仕事は翌日に控えていた。面接を終えた大久保さんはその足で量販店に赴き、ワイシャツやスニーカーをそろえ、都内のビジネスホテルにチェックインした。

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source : 週刊文春