『リンカイ!』は不思議なアニメだった。
女子競輪のアニメです。ただ自転車が好きで競輪選手養成所に入所した伊東泉。同期や先輩との交流の中で選手として成長していくというストーリー。よくあるやつである。泉も他の選手も、実在の競輪場から名前を取っている。平塚さんとか岸和田さんとか。『ウマ娘』ならぬ『競輪場娘』か。
競輪に限らずマイナー世界がアニメやドラマになった時、ファンは「こんなんじゃねえよ!」と言いたくなることが多い。
が、この『リンカイ!』は不思議なほど「ちゃんと競輪」だ。アニメ美少女が競輪をするのに、競輪場はくすんだ灰色である。競輪ファンが自嘲ぎみに語る「競輪場の荒れ果て感」が、ごくふつうに描かれる。登場人物が握りしめる金網や手すりは錆びつき、客はまばら。寂れた動物園のような光景が、競輪ファンにだけはわかるような精緻さで、あとからあとから出てくる。
マジでこれは競輪だ。
競輪選手には成績不良によるクビ制度がある。「代謝」というのだが、ちょっとないぐらいヒドイ言葉だと思う。その「代謝」がタイトルになってる回があり競輪ファンはざわついた。そしてその回では、ことさら悲劇的でもなく「ここで負けたら代謝になる」女子選手が負けて淡々と競輪場を去る。帰り道の彼女のスマホに競輪ファンの祖父から「いい走りっぷりだった!」とLINEが来て、はじめて号泣する(彼女は観音寺炒子といって、廃止になった観音寺競輪場から名前を取っているというのも競輪ファンには胸熱)。毎年何人もの選手がこうして淡々と静かに去っていく。ここ見てたら泣けたなあ。
このアニメが企画されたのは「競輪人気をアップしたい」ためで、『ウマ娘』の二匹目のドジョウ狙いをやってるのだが、それにしては「競輪をキラキラなものとして描いていない」。女の子たちが選手を目指すのも、いい意味でテキトーで、それがすごくリアル。そりゃアニメですから「こんなんアリかよ」っていうような展開もあるけど、それにしたって「ちゃんと競輪してるよ……」と思える、すごくマジメなつくり。これを見て「競輪場に行ってみるか」という人は、実際の競輪場でそんなにギャップは感じないと思う(そして女子選手は魅力的な子がほんとに多いです。可愛い子もカッコいい子も)。
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source : 週刊文春 2024年7月18日号