7月8日(月)

 たまーに空いた時間を見計らって映画に行く。もっと行ければよいのだが。午前中、新宿武蔵野館にて入江悠監督の『あんのこと』を観る。河合優実主演。[薬物と売春で逮捕された杏。刑事の多々羅(佐藤二朗)は杏を立ち直らせようと自分が主催する薬物更生グループに誘う。仕事も見つけ新たな一歩を踏み出す杏だったが、コロナ禍が始まり……]と、ざっとこんな筋です。映画が終わるといつもはすぐにスマホの電源を入れるのだが、今日はカバンからスマホを取り出してちょっと考えてまたカバンに戻す。映画館を出て山手線に乗り、寄席に行くまでの間、しばらく『あんのこと』について考えた。なかなか日常に戻らせてくれない、そんな映画でした。午後は寄席2軒。上野鈴本で『愛宕山』、浅草演芸ホールでは『普段の袴』。上野は真打になったばかりの三遊亭わん丈が昼、林家つる子が夜のトリ。お客もよく入ってる。夜は茅場町の東証ホールにて月一勉強会「真一文字の会」。終演後は弟子とお囃子さんと神保町のゆにおん食堂で打ち上げ。帰宅してまだ酔いもほどほどだったので『あんのこと』のパンフレットをじっくり読む。

7月13日(土)

 全国ツアー長野公演。前座には長野市出身、林家十八(とっぱち、と読む)くんを同行。その土地の生まれの後輩がいれば声をかけるようにしている、我ながらいい先輩じゃないすか? 十八は学習院卒の元小学校教諭で、お父さんとお姉さんが弁護士だそうだ。「保護者との不倫がバレたか、生徒に暴力かイタズラしてクビになったの?」「他の師匠にも同じこと言われました」「なんかあったらお父さんかお姉さんに安く弁護頼める?」「他の師匠にも全く同じこと言われました」……はいはい、発想が貧困でスマンかったよ。会は満員御礼。オープニングトークでイジった小学3年くらいの子が「『初天神』が好きです!」と言った。ただ言われた通りやるのも面白くないので、トリで『初天神』の自作の改作『団子屋政談』をやる。店先で駄々をこねる子供とその親父が団子屋から訴えられて大岡越前の裁きをうけるという……馬鹿馬鹿しい噺。十八の父上と姉上は同じ司法に携わる立場としてどうこの噺を思ったろうか? ちなみにリクエストした子供は「ふつうの初天神がよかったな」みたいな顔をしていたよ。十八父上、お差し入れありがとうございました。

7月16日(火)

 午前中、今日は休みだという家内と一緒に映画『ルックバック』鑑賞。なんだけっこう映画見てるじゃないか。開始3分くらいで泣きそうになる。絵の得意な小学生女子の主人公藤野が机に向かって絵を描いてるその背中を見るだけでもう涙腺が決壊。うちの娘も絵が好きなのだ。でもいくらなんでも泣くのが早すぎでカミさんが呆れていた。藤野の声は河合優実さん! 午後は鎌倉の某ホテルにて某銀行主催の100人ほどのスーツを着たお堅い男性8:女性2の某お集まり。暑さのあまりTシャツで行ってしまった。もっと早くこういう場ではネクタイをするような人間になっておくべきだった。なんとなく「この人はこんなかんじか……じゃあしゃあないな」と先方が察してくれるような年になってしまった。最前列に今は一線を退いてらっしゃるが、日本人なら誰でも知ってる超有名人が座っていて驚愕。私は目が悪いのでその方が笑っていたのかは不明。「怖くて見られなかったですー」と共演の三味線漫談家、林家あずみちゃん。翌日会主さんからのメールでは「Mさんも喜んでらっしゃいました」とのこと。ほんとかなぁ……ファイナルアンサー? 夜は神保町らくごカフェにて「らくごカフェに火曜会」。二つ目の柳家あお馬さんと二人会。らくごカフェは楽屋が高座と壁一枚で畳2帖。共演者の噺が聞きたくなくても聞こえてくる。これがいい。しかもよその一門の二つ目さんを聞く機会もそうないことなので、あお馬の『居残り佐平次』をゆっくり聴く。私は『水屋の富』を一席。終演後、あお馬のお母さんが挨拶に来てくれた。「いつも大変お世話になっておりますううぅ!!」とても元気だ。「私、あお馬の母で、周りからは『老馬(婆)』なんて言われちゃったりして!! あはははっ!!」「お母さん、サイコーですね」と無表情で返したら、「はははっ! またよろしくお願いいたしますううぅ!!」とゴキゲンで帰っていった。あお馬によると「お母さん、ちょっとすべっちゃったわーっ!!」とやっぱりゴキゲンだったらしい。ステキなお母さん。あお馬母上、お差し入れありがとうございました。

7月20日(土)

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source : 週刊文春 2024年8月29日号