老境に入ると、心穏やかに過ごす平穏な毎日が待っている。下手をすると、そのまま成仏するかもしれない。そう思っていたが、とんでもない間違いだった。平穏どころか、心は千々に乱れ、動揺の連続だった。
まずパリオリンピックだ。日本の選手が勝つと、自分のことのように喜び、さまざまな思いが去来した。これまでの血のにじむ厳しい練習、同じ年頃の子がデートやおしゃれやグルメやツチヤ本を楽しんでいるのを横目で見ながら、苦しい練習に打ち込み、自分の身体をいじめ抜いても調子は上がらず、何度絶望の淵に突き落とされたことか。身体の不調に悩み、絶望し、どれだけの痛みに耐えてきたことか。「がんばってね」と言われるたびにのしかかる重圧。苦しい毎日が思い出され、努力は最後には報われると確信した。
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source : 週刊文春 2024年9月5日号