木嶋が新聞に寄せた手記は話題を呼んだ。注目を浴びることに快感を覚えた木嶋のもとにまた一通、執筆の依頼が届く。作家・木嶋佳苗を生んだ編集者の初めての肉声。

「木嶋佳苗さんを書くんですか。そうですか……」

 2022年11月、私はある人に話を聞くため、愛媛県鬼北町に赴いた。あらかじめメールで用件は伝えていたのだが、向き合うと彼は独り言のように、つぶやいた。

「木嶋さんを書く……」

 八木秀和、45歳(当時)。

 かつて彼は、獄中の木嶋に自分の生まれ育った故郷を手紙でこう説明した。

〈私の育った場所は山間部で小さい頃は読書をするか、山や川を駆けずり回った野生児でした。自宅から一番近いジュースの販売機まで1キロ。小学校は山を下って2キロです〉

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source : 週刊文春 2024年9月12日号