【前回までのあらすじ】札幌の大学に通うマチは恋人の浩太の家で狩猟雑誌を見つけ、狩猟の世界に惹きつけられる。大学の近くに銃砲店があることを知り、外から様子を窺っていると、老婦人から店へ招き入れられる。店主の堀井も加わり、マチが狩猟に興味があることを話していると、一人の男性客が。新田は猟友会の会長で、猟期になったら鹿撃ちを見に来るようマチを誘う。

 

 初めて訪れた堀井銃砲店から大学に戻った後、四限目の授業を受けたマチはなかなか講義の内容に集中しきれなかった。

 父の取引先の社長が常連だったという驚きもあるが、それよりも、ケースに整然と並ぶ猟銃の数々。その直線的なフォルムが幾度も脳裏に蘇る。自分でも分かるほどに、マチは浮かれていた。

 それでも、給料が発生するアルバイトの最中は、マチは気持ちを切り替えることができていた。

 女性専用会員制フィットネスジムを経営する母から、パーソナルトレーニングのインストラクターを持ちかけられてから一年半。最初はスタッフから『オーナーの娘さん』という目でばかり見られていたが、長距離走とトレイルランで鍛え上げた体と身につけたトレーニング理論で、マチはすぐにスタッフにも会員にも認められた。

「フッ、フッ、はあっ」

 六畳ほどの個別トレーニング室に、人ひとり分の荒い息遣いが響きわたる。額で玉になった汗が赤い頬を伝ってマットへと落ちた。

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source : 週刊文春 2024年10月17日号