【前回までのあらすじ】札幌の大学に通うマチは恋人の浩太の家で狩猟雑誌を見つけ、狩猟の世界に惹きつけられる。大学近くの銃砲店を訪れたマチは、店主の堀井から、たまたま客として訪れた猟友会会長の新田を紹介される。話をしてみると、彼は父の会社の取引先である新田工作所の社長だった。帰宅すると、マチは思い切って父に狩猟に興味があることを打ち明ける。

 

 狩猟や猟銃に興味があることを父に打ち明けた後、マチは自室に戻るなり全身をベッドに投げ出した。マットの振動に合わせるように息を吐くと、同時に体の力も抜けていく。

 緊張してたんだ。

 マチは自分の心身の反応が意外だった。父は頭ごなしに反対するような人ではないとは分かっていた。とはいえ、陸上をやりたいとかトレイルランに転向したいという今までの自分の願望とは種類が異なる。受け入れてもらえるか、マチは自分が意外と心配していたことに気付いた。

 トレイルランでいえば、この急傾斜を越えたところに荒い岩場が続くと想定していた先が、ただの林道だったような。そんな、不安とある種の期待が幻と消えたような脱力感があった。

 ただ、その先は濃い霧がかかっているのがここからでも見える。この先に自分の目指すゴールがあるのは分かっているが、地形に関する情報が一切ない。わざと途中の詳細を消されたルートマップを渡された気分だった。

 先が見えない不安がよぎる。そのざわざわする感じがどこか心楽しくて、マチはわざと不敵に笑った。

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source : 週刊文春 2024年10月24日号