「ノーモア映画泥棒」のCMはもう、本当に見たくない。私に何回これを見せれば気が済むのだろうか。いや、回数はわかっている。この10年で300回くらい見た。こんなに足繁く映画館に通っているのに、「不審な行為を見つけたら、お近くの劇場スタッフまでお知らせください」と言われても、そんな人見たことないし、怪しげな人すらいない。ほぼ全員このCMと無関係だと思う。
そんな愚痴はともかくとして、私がなぜ自信満々に10年で300回くらい映画館に行ったと言い切れるのかというと、手元のiPhoneのメモに、映画を観た日付、自分の採点、簡単な感想を、全て記録として残しているからだ。
私はその年に公開された新作の映画を年間60本以上、観ている。そのうち、30〜40本は映画館に足を運んで観る。残りは配信されているものか、サンプルDVDなどで観る。試写会にも誘われるが、朝昼晩問わず、空いた時間にすかさず映画館の席を予約して、ポップコーンを食べながら気軽に観るのが大好きなので、基本は公開日以降に観ている。
なぜこんなに新作映画を観ているのか、それは、私が報知映画賞の選考委員を務めているからだ。
2012年に初めて選任されて以来、今年で13年目になる。最初の年に、これはヤバいものを引き受けてしまったと激しく後悔した。まず、観なければいけない量が膨大で半端ない。もちろん元々映画好きではあるのだけど、胸キュンとかホラーとか、普段なら敬遠しがちなジャンルの作品も義務的に観ることになる。
「藤田、騙されたと思って」
そして、毎年11月に行われる選考会の当日は、私にとって年に一度、時がスローモーションで流れる日だ。一つ一つの賞を、一人一人の選考委員の話をじっくり聞きながら議事を進め、厳正な投票によって決める。いつもなら自分が主導権をとって、ぱっぱと決めてさっさと物事を進めるので、この進行に付き合うのは正直苦痛だ。その上、私が推す作品など、自分の意見が全然通らない。社長業をやっている普段ならありえないので、そのストレスで発狂しそうなのもグッと堪えている(今年ももうすぐその日がやってくる)。そうして1日かけてようやく決まった各賞の授賞式が、12月にホテルで盛大に行われるという流れだ。
1年間、映画を観たトータル時間も含めて、こんなにも莫大な労力を費やしているにもかかわらず、恐らくこの連載の読者の中にも私が報知映画賞の選考委員の一人であることを知っている人はほとんどいないと思う。自分史上、断トツに仕事内容とその対価が見合ってない。そう思い、最初の数年で2度、3度、辞めたいと申し出た。しかし、そのたびに、私を誘ってくれた同じ選考委員の幻冬舎の見城徹社長に引き止められた。「藤田、騙されたと思ってこれを続けてみろ」と。
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source : 週刊文春 2024年11月7日号