出征前、我が子を抱いて泣いた夫は帰らなかった。凍てつく大地で、戦友は冷たくなっていた。百歳を迎えてなお忘れられぬあの面影、凄惨な記憶を語り残す。

極寒のモンゴル抑留 凍傷で両足を失った|友弘正雄さん(100)

 今年7月8日、モンゴルの首都ウランバートル市郊外。同国を訪問中の天皇皇后が、ダンバダルジャー地区にある日本人死亡者慰霊碑に拝礼された。その一挙一動を万感の思いで見ていたのが、神戸市に住むモンゴル抑留経験者の友弘正雄さんだ。

 テレビを見ていて、涙が止まらなかったね。嬉しくて嬉しくて。本当に供養になりました。死んでいった仲間たちは、慰霊碑の天の上を、大喜びで飛び回っていたと思いますよ。モンゴルから生きて帰った仲間たちも、今やほとんど亡くなってしまったからねえ。

 

 戦後、旧ソ連に抑留された日本人は約60万人。そのうち1万4000人余がモンゴルに移送され、強制労働の果て、約1700人が命を落とした。

 陸軍にいた私は、満州で終戦を迎え、ソ連軍の捕虜になりました。囚人列車やシベリア鉄道を乗り継いで、北側の国境からモンゴルへ。トラックでウランバートルへ移送されたのは12月、極寒の季節です。

 トラックの荷台には15人ほど仲間が乗せられていましたが、みな疲れ切っていまして。ええかっこしいだった私は、シートのかかっていない荷台の一番後ろで仲間を励ましていたんです。ですが、寒さで意識を失い、ウランバートルに着く頃には仮死状態になってしまってね。

 捕虜を収容するアムラルト病院に運び込まれた当時20歳の友弘さんは、凍傷を負った両足の脛から下を切断。その模様は、手術に立ち会った元モンゴル抑留者の直木賞作家・胡桃沢耕史(故人)の「黒パン俘虜記」にも登場する。

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source : 週刊文春 2025年8月14日・21日号