世界で戦争が相次ぐ中、プーチンやネタニヤフに逮捕状を出したICC。ここで日本初の所長を務めるのが赤根氏だ。その役割が注目される中、「法の支配」が脅かされている。
今年の6月5日、アメリカが「イスラエルおよびアメリカを標的とした不当かつ根拠のない行動に関与した」としてICCの裁判官4人に対して制裁を行いました。私はこの時ドイツに出張中でしたが、新たな制裁が発動されるのではという情報は事前に入ってきていたので、制裁が発表された直後に非難声明を出したのです。
ハーグに戻ってからは緊急の裁判官会議を開き、制裁を受けた裁判官一人一人から聞き取りを行いました。ある裁判官は、「私たちは使命を果たすべくここで働いている。それなのに、その仕事を理由にこのような目に遭うなんて、司法に対する介入がどのようなものか身に染みた」と語っていました。「アメリカの経済制裁リストにテロリストや麻薬犯罪者と並んで自分の名前が記載された。これがどんなに屈辱的か」と涙ながらに訴えるのを、私も含めた他の裁判官たちは涙をぬぐいながら聞きました。

制裁を受けた4人のうち2人は、2020年にアフガニスタン紛争での戦争犯罪の疑惑について捜査開始を承認した裁判官ですが、その後ICCの検察局はタリバンの指導者のイスラム国ホラサン州における行為をこの捜査の主たる対象としました。しかし、米国は、米軍・CIA関係者等にも捜査が及ぶのではないかと考えていました。あとの2人は、ガザ地区における戦争犯罪などの容疑で、イスラエルのネタニヤフ首相らに逮捕状を出した裁判官です。
ここで問題なのが、制裁対象になった裁判官がウガンダ、ペルー、ベナン、スロベニアの出身で、いずれも女性だということ。ネタニヤフ首相に逮捕状を出した裁判官は3人いたのに、2人だけが対象となり、先進国の男性裁判官は対象とならなかった。これは明らかに選択的で、先進国と他の国の分断を図るような行為です。

ICCが脅かされているのはアメリカからの圧力だけではありません。所長になる以前の2023年7月、私はロシアから指名手配されました。たまたま休暇で日本に一時帰国中だったのですが、〈ロシアがICC日本人裁判官を指名手配〉と速報が流れて、自分が指名手配されたことをテレビのニュースで知ったのです。
ICCはロシアのプーチン大統領とマリヤ・リボワベロワ大統領全権代表(子どもの権利担当)に戦争犯罪の容疑で逮捕状を出しました。私はその逮捕状発付の判断をした裁判官の一人ですから、この指名手配がICCに対する報復なのは明らかです。
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source : 週刊文春 2025年8月14日・21日号
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